第18回: 自分とのコミュニケーション − 言葉の使い方と感情 −
自己対話により思考パターンが形成される
本連載の第11回(2012年2月号)では「自己対話と感情のマネジメント」というテーマで、自分自身に対してよい質問を投げかけることの効能をご紹介した。自分がいかによい言葉を使い、思考するか。感情やモチベーションは、普段使う言葉・口グセにかなり影響を受ける。
一説によると、人は1日に2〜3万回は自己対話(セルフトーク)をしていると言われる。これまでの人生において、無意識に繰り返してきた自己対話によって思考パターンが形成されていく。つまり、よくも悪くも自分の言葉に洗脳されることになる。例えば、周りの人の普段の言葉遣いをよく観察してみてほしい。そして、その人の行動の傾向も観てみてほしい。おおよそ発している言葉通りの動きではないだろうか。
最近、幹部との面談で、「あなたはリーダーとして、普段どんなことを考えて仕事しています?」という質問をしてみた。実はこれによって、その人の思考パターンがみえてくる。その質問に対する答えは、例えば「1日安全に終わればいいな」「どう効率よく仕事をしていくか?」「みんなが伸び伸びと仕事ができるようにするには?」など。このような、自分がいつも中心的にしている質問を“プライマリークエスチョン”と呼ぶ。これによって、自ずと焦点を当てる場所が変わっていくのだ。
例えば、新しい仕事が目の前に現れた時、どのような言葉で対応するかで一瞬で方向性が決まってしまうだろう。「いいね〜」「よっしゃ」「大丈夫」「OK!」のように、明るい言葉、力強い言葉、前向きな言葉、可能性思考で対応するのか。それとも、「面倒くさい」「無理」「厳しい」「何で」のように力を奪うような言葉で対応してしまうのか。後者からは決して建設的な発想は生まれてこない。
元気を与えるリーダーとしての言葉遣い
そこで、もし後ろ向きな言葉が出そうになったら、前向きな言い方に変換してみるとよい。「〜できない」という否定的な言い方ではなく、「〜できる」と肯定的に言い換える。前述した「面倒くさい」は「やりがいがある」に、「無理」は「どこまでだったら自分はできるだろう?」に、「厳しい」は「他によい方法はあるだろうか」に、「何で」は「自分だから依頼されてるんだな」のように言い換えると、気分やとらえ方が変わってくるだろう。
また、それが難しく感じるのであれば、少なくともそのような後ろ向きな言葉を口にしないようにすると、それだけでも違う。よくありがちなのは、何か言おうとする際に、枕詞で「私には難しいですが、」「まだ出来てはいないのですが、」「自信がないので、」など不必要にへりくだることだ。これは無意識に自己イメージを下げ、パフォーマンスを下げることに繋がってしまう。
自分がよく使う言葉の特徴は、自分ではあまり気づけないものだ。時に他者からのフィードバックをもらい、自分のパターンを把握し改善につなげることも必要だろう。
以上のように、力にあふれる言葉を使うことで、まず自分自身が元気になり自信が湧く。そして周りにエネルギーを波及し、元気を与えることにも繋がり、何より部下からの信頼度が変わる。リーダーとして、“言葉遣い”は本当に見逃せない要素なのだ。
●「EQ 相手のこころに届く言葉」 高山直 日本実業出版社 2007
●「セルフ・コーチング入門」 本間正人 松瀬理保 日経文庫 2006
●「仕事に活かす集中力のつくり方」 辻秀一 ぱる出版 2007
※ この記事は月刊誌「WAM」平成24年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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