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連載コラム
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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例B:特別養護老人ホームで発生した原因不明の骨折事故

こんな事故が起きました!

M さんは、自発動作が少ない寝たきりの90 歳の特養入所の女性です。ある時、娘さんが面会に来て、右の上腕骨の腫脹を発見して受診したところ骨折していました。娘さんは、「動けない母が自分で骨折するわけがない。介助中に骨折させたのだろう」と施設の責任を追及しました。施設長は「いつどのように骨折したのかわからない、骨粗鬆症の人は注意していても折れることがある」と説明し、家族は市に苦情申立をしました。

事故原因と防止対策

施設長が言う通り、どんなに丁寧に介助していても、防ぐことのできない骨折事故があるかもしれません。しかし、「どのように骨折したのかわからない」という説明では家族は納得しません。家族にとって、事故原因が不明だから何の防止対策を講じないということは、事故の再発を施設が放置していると受け取ります。ですから、このような骨折が原因の苦情申立書には、「原因を究明しようとする姿勢を見せない施設の態度に腹が立つ」と書かれてしまうのです。

では、どんな場面で骨折したのか判らない状況で、事故原因と再発防止策についてどのように説明したらよいのでしょうか? おそらく事故の真相を究明することは不可能でしょう。しかし、どんな場面で骨折が起きた可能性が高いのかを推定して、そのような場面の骨折事故に対する防止対策を説明することは可能です。

「確実なことは申し上げられませんが、お母様が骨折したのは○○の場面の可能性が高いと推定されます。そこで私どもでは再発防止のために△△という防止策を検討しました。ご家族様のご意見がございましたら、ぜひお聞かせください」と説明すれば納得しない家族はいません。原因不明の骨折が大きなトラブルに発展する最大の要因は、事故原因の究明と再発防止策に対する施設の対応姿勢が見られないことなのです。

では、骨折場面はどのように推定したらよいのでしょうか?当然どのような根拠で事故原因を推定したのか、家族に説明しなければなりません。この事故原因の推定には診断をした整形外科の医師の協力をお願いしましょう。どんな“骨折状態(折れ方)”だったのか、医師の意見を聞くと事故場面の推定に役立ちます。骨の折れ方は次の3種類ですから、これが判明すると手掛かりになるのです。

@他物との衝突や打撃によって折れる。
A圧迫に骨が耐え切れずに折れる。
Bひねりの力で捻じれて折れる。

もし、本ケースで「右上腕骨が捻じれて折れた」ということが医師の意見から判明すれば、右上腕骨を捻るような介助場面はどのようなケースかを推定すればよいのです。ちなみに、上腕骨が捻って折れたというと、介護職はすぐに「移乗介助だ」と言いますが、更衣の場面でも捻じれによる骨折はよく起こります。事故場面の推定もさまざまなケースを慎重に検討しなければなりません。

トラブルを避ける事故対応

施設長の説明は「この骨折事故は不可抗力で施設の過失ではない」というニュアンスでしたが、この事故の過失の判断はどうなるのでしょうか?

裁判になれば裁判官は次のような判決を下すでしょう。「被害者は自発動作が極めて乏しい利用者であるから、介護職員が介助を行う際に骨折させた可能性が高いと推認される」と。つまり、自発動作の少ない利用者の原因不明の骨折は施設側の過失と判断されるケースが多いのですから、謝罪をして補償を申し出るべきだったのです。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年6月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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