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介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。
ある土曜日にヘルパーが訪問介護中、利用者をつかまり立ちさせて車椅子と椅子を入れ替えたため、フットレストが利用者の足にぶつかり裂傷を負わせました。心配性のご主人が病院に連れて行きましたが、ヘルパーが事務所に「介助ミスで利用者の足に傷がついた」と報告しましたが、担当のサービス提供責任者が公休だった(365 日稼働のため休日は交代制)ため、事務所ではその後何の対応もしませんでした。月曜日にご主人から「8 針も縫う大ケガをさせて謝罪もないのはおかしい」と大変な剣幕で苦情の電話がありました。すぐに所長とサービス提供責任者が謝罪に伺い、ヘルパーには正確に事故報告をするように厳しく指導しました。
もちろん、この事故の原因は、ヘルパーが「利用者をつかまり立ちさせて車椅子と椅子を入れ替える」という乱暴な介助をしたことです。そして、大きなトラブルになった原因は、ヘルパーが「足に傷がついた」という正確性を欠く事故報告をしたことです。しかし、事故の原因もトラブルの原因もヘルパー個人の問題で片づけてはいけません。なぜなら、人は自分のミスが原因で事故を起こした時、誰でも事故の損害を過小報告する傾向があるからです。無意識のうちに自分を守ろうとして、「大したことはない」と自分に言い聞かせ、損害を過小評価してしまうので、最悪の損害を想定した行動を取れなくなります。ですから、「ヘルパーのミスで事故が起きた」という場合は、その申告を真に受けてはいけないのです。どんなに軽微な事故と報告されても、必ず事務所の職員が居宅へ行って迅速に損害の確認を行わなければいけません。高齢者の場合、事故の直接損害は軽微でも持病や服薬の影響で、その後に二次的な損害が発生する可能性もありますから尚更です。
次の問題は、担当のサービス提供責任者が公休などで不在の場合、適切な対応ができなくなることです。ヘルパーの性格や利用者・家族の性格まで、担当でないサービス提供責任者が把握するのは難しいからです。この事例の訪問介護事業者も同様ですが、最近では365日稼働する訪問介護事業者が多く、サービス提供担当者は交替で休日を取得するので、どうしても事情に詳しい担当の職員が不在という日ができてしまいます。では、このような難しい危機対応に対して事務所体制を改善する方法はないのでしょうか。本事例の担当サービス提供責任者は、月曜日に出勤した途端にこの大きなトラブルに直面してこう言いました。「連絡をくれれば休日でも対応したのに」と。
この訪問介護事業所では、事務所の対応ルールを次のように変更しました。「お客様やヘルパーから事故もしくはクレームの報告が入った時は、休日でも担当のサービス提供担当者の携帯に電話を入れ、電話に出ない時は伝言を残す」というルールです。担当者が公休中であっても自分が必要と判断すれば、休日出勤しても必要な対応を行います。休日出勤したい職員はいませんが、このルール変更に反対するその他のサービス提供担当者は一人もいませんでした。なぜなら、休日で不在の間に大きなトラブルが起こり、その解決のために苦労するのはその担当者自身だからです。トラブルにならないうちに手を打てるのであれば、休日出勤しても対応する方を誰でも選ぶのです。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年8月号に掲載された記事を一部編集したものです。 月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。