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連載コラム
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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例K:暴言・暴力を理由にサービス提供を拒否したが…

こんな事故が起きました!

性格が粗暴な認知症のないデイサービスの利用者M さんが、他の利用者に対して「お前をぶっ殺してやる」と言って、「胸ぐらをつかんで拳を頬に押しつける」というトラブルがありました。被害を受けた利用者はすぐに利用を止めると言ってきたので、デイサービスではM さんの息子さんにサービス提供を中止すると連絡しました。ところが、息子さんは「父の暴言と暴力の証拠を見せろ」と詰め寄りました。デイサービスでは当日の記録を見せて説明しましたが、記録には「M 様がH 様にひどい暴言を吐いて威嚇する振る舞いをされた」とだけ書かれており、逆に息子さんから「あることないこと言うと名誉棄損で訴える」と言われてしまいました。

事故原因と防止対策

デイサービスなど介護サービスでは、正当な理由なくサービス提供を拒否することができません。もちろん「他の利用者に対する暴力」という事実は、サービス提供拒否の正当な理由になり得ますから、デイサービスの判断は正しいのですが、理由を相手に示さなければなりません。この「正当な理由」の判断基準では、相手の行為が脅迫や暴行など刑法に抵触するかどうかも一要素になります。

しかし、Mさんの暴力行為を理由にサービス提供を拒否しようとした時、事例のように記録の表現が曖昧では、サービス提供拒否の正当な理由を示したことにはなりません。他の記録と同様に事故やトラブルの記録では、事実を具体的に記録していなければ意味がないのです。本事例では、「ひどい暴言」「威嚇する振る舞い」など抽象的な記録だったため、サービス提供を拒否すべき言動であると主張できなくなってしまいました。

サービス記録や事故記録などは事業者側が作成しているので、裁判などの証拠として法的に効力があるかは疑問の余地がありますが、事実を主張する根拠としては有効なのです。事実を主張するための根拠ですから、“ありのままを正確に記述する”ことが絶対条件なのです。誰が何を言ったのかを直接話法で記録し、どのような行為をしたのかを具体的に記録することが求められます。

ところが、介護職員は相手を思う気持ちからか、言葉にすることがはばかられるような表現を記録したがりません。訪問介護で家族がヘルパーに対して卑猥な言動があり、利用を拒否しようとしましたが「卑猥な言葉を話される」という曖昧な記録では利用を拒否できませんでした。自らを守るためにも理不尽な行為などは具体的な記録が必要なのです。左に例をあげますので参考にしてください。

記録の例
トラブルを避ける事故対応

本事例では、M さんと家族にいきなり利用中止の連絡をしてしまいました。少なくとも介護サービスを利用している以上、一方的に利用を中止されれば生活に支障が出ますから家族も反発します。まずは、乱暴な言動を止めてもらうよう具体的な記録を元にていねいに家族に伝えたうえで、「改善しない場合には利用中止になる場合がある」と面談してしっかり説明すべきでした。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年6月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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