こんな事故が起きました!
M さんは、身体には障害がありませんが認知症が重い78 歳の男性利用者で、1 週間の予定で初めてショートステイを利用しました。利用前に施設の相談員は「居室離床センサーを設置して転倒を防止する」と説明してくれました。ところが、2 日目の晩にM さんはベッドから起きてトイレに行こうとして転倒し、大腿骨を骨折してしまいました。離床センサーによる転倒防止対策で安心していた家族がクレームを言うと、相談員は「認知症の利用者は行動が素早いので、センサーコールに対応したが間に合わなかった」と説明しました。
事故原因と防止対策
自力歩行の認知症利用者の転倒を防止することは極めて難しいのが現状です。「トイレに行く時にはコールで呼んでください」と介助を促すことも難しいですし、たとえ歩行介助をしても歩行中に転倒されるなど実際には防げないケースが多いからです。ですから、このような利用者の家族に「転倒防止のために離床センサーを設置します」と伝えることは得策ではありません。利用者の家族は転倒が防げると過大な期待をするので、転倒事故が起きた時トラブルになりやすいのです。実際には離床センサーで防げる転倒事故は少なく、センサーに対応して駆けつけても間に合わないケースが多いのです。では、自由に歩行する認知症の利用者の転倒事故を防ぐ方法はないのでしょうか?
介護職員は利用者の生活行為に伴うリスクに対して、「見守りの強化」と言って自分たちの手で防止しようとしますが、これには限界があるのです。違った視点で検討すれば、向精神薬や血糖降下剤の見直しによって転倒リスクそのものを減らすことも有効ですし、転倒してもケガをさせないような損害を軽減する対策も有効です。前者を「未然防止策」、後者を「損害軽減策」と呼び、見守りの強化(直前防止策)より有効な対策であると考えられています。事故防止対策には3種類の方法があるので、これらをバランスよく使い分けることが、効率的な事故防止活動につながるのです。
対策のなかでは未然防止策が最も効果が高いのですが、根本原因を究明することも除去することも容易ではありません。一方、損害軽減策は簡単にできて、しかも効果がわかりやすいので、さまざまな対策を講じることが可能です。例えば、ベッド脇に90p ×150pの広さで厚さ2oの衝撃吸収カーペットを貼り付けるという方法で、転倒した時の骨折防止に効果があります。また、大腿骨の部分にパッドの入ったヒッププロテクター付きのパンツを家族に購入してもらえば、ダブルで骨折防止の効果があります。ただ見守りを強化するだけでなく、さまざまな種類の防止対策を組み合わせることで、総体としてのリスクを低減することが可能になるのです。
トラブルを避ける事故対応
本事例では、相談員が「転倒防止のために離床センサーを設置する」と伝えたことで、家族は転倒が防止できると誤解してトラブルになりました。転倒防止の効果は低いのに過大な期待を与えることは慎まなければなりません。それよりも、「転倒しやすいベット脇の床に衝撃吸収材を敷きましたので、ご家族で骨折予防に効果のあるパンツをご用意いただけませんか?」とお願いする方が得策です。家族にも転倒防止に対して一定の役割を担ってもらうことが、トラブル防止にも役立つからです。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。