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連載コラム
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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例M:リフト浴で溺水事故 安全ベルトは未装着

こんな事故が起きました!

安全ベルトを装着せずにリフト浴の椅子を浴槽に降ろしたために、浮力でバランスを崩し利用者が溺れる事故が起きました。浴槽のお湯をたくさん飲み、嘔吐も激しかったので救急搬送されましたが、幸い無事でした。家族からは「危うく死ぬところだった。初歩的なミスで職員の責任は大きい」と大きなクレームになりました。施設長は「安全ベルトの着用を徹底する」と約束しましたが、職員からは「ベルトの材質が硬いため強く締めると皮膚に擦過傷ができ、利用者も皆嫌がるのでベルトの着用は無理だ」と反論があがりました。嫌がるのを強制するわけにも行かず、施設長は困ってしまいました。

事故原因と防止対策

事故の状況だけを見れば、リフト浴の安全ベルトを装着せずに入浴させたという職員のミスが、溺水事故の原因のようにみえます。しかし、「なぜ安全ベルトを装着しなかったのか?」という、職員のミスを引き起こす要因に着目すると、ベルトの材質が硬くて素肌に直接装着しにくい、というミスの裏に隠れている要因がみえてきます。実際に安全ベルトに触ってみて判りましたが、車のシートベルトよりも硬い材質なので、職員の主張は正しいのです。

しかし、安全ベルト未装着のままリフトチェアに載せただけで浴槽に降ろすのは、どう見ても危険過ぎます。もしチェアから落ちれば溺死することもあるでしょう。では、同じ機械を使用している他の施設はどのようにしているのでしょうか? 皮膚が傷つかないように安全ベルトと身体の間にタオルを挟んでいる施設がありました。また、普通のタオルの両端に洋裁用の平ゴムを縫い付けて、柔らかい手製の安全ベルトを作った施設もありました。しかし、忙しい介護現場にそこまで要求するのは酷なのではないでしょうか?

【 実は製品欠陥でメーカー責任を問える 】

さて、本事例の事故を少し違う視点で検証してみましょう。リフト浴の安全ベルトは、これを装着せずに使用すれば、溺死事故も発生する重要な安全用具です。ところが、素肌に直接装着することが前提の安全ベルトが硬すぎる材質で、装着したとき肌に傷がつくのでは、安全ベルトの機能として不完全なのです。

リフト浴で溺水事故 安全ベルトは未装着

製品の設計ミスで安全機能に欠陥がある製品を使用して、安全機能が働かず事故が起これば、製品欠陥が原因で生じた事故として、メーカーに製造物責任(PL法)を問うことができます。介護業界の製品重大事故では、ベッド柵の隙間での「挟まれ事故」で平成19年から24年までの6年間で32人の死亡者が発生しており、消費者庁から注意が喚起されていることは有名です。

ですから、本事例の事故も製品の安全機能に欠陥があるといえますから、事故につながればメーカーの責任を問うことや欠陥製品としてリコール(無償修理・交換・返金などの措置)を求めることもできます。管理者は、施設で使用されている介護機器や福祉用具に製品欠陥がないか絶えずチェックして、メーカーへの対応を求めることが必要です。

トラブルを避ける事故対応

外見的には職員のミスが原因で発生しているような事故でも、職員のミスを誘発する原因が改善されないまま放置されていることがあります。このような事故が起きた時、家族への再発防止策の説明で「職員に注意するよう徹底しました」という説明は適切ではありません。後日同じミスで事故が発生した時、大きなトラブルにつながるからです。職員のミスが原因と考えられても、管理者は職員のミスだけに責任を押しつけるのではなく、ミスが起きやすい無理な環境ではないか、サービス提供環境を絶えず検証してほしいのです。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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