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連載コラム
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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例Q:転倒後経過観察中の利用者にPTがリハビリ施行

こんな事故が起きました!

老人保健施設で起きたトラブルです。リハビリに熱心に取り組んでいる女性利用者が、深夜に居室で転倒しました。看護師は緊急性がないものの骨折の可能性もあるので、翌朝の受診が必要と判断して家族に連絡を入れ介護職員に申し送りをしました。ところが、翌朝、受診に同行するために家族が来所して居室に行ってみると、利用者が居ません。居室担当の介護職員に尋ねると、「PT が朝一番でリハビリに連れて行った」と言うのです。家族は「転倒して受診するというのになぜリハビリをするのか?」と抗議、そのうえ受診すると上腕骨を骨折していたので、大きなクレームになりました。

事故原因と防止対策

このトラブルの直接の原因は、前夜に転倒し経過観察中という情報が、PTに伝わっていなかったことにあります。居室担当はリハビリの予定を調べPTに伝えるべきですし、PTも念を入れてリハビリ施行の前に利用者の状態をチェックしなければなりませんでした。しかし、他職種の職員間での利用者情報の共有は徹底することが難しいですし、介護職員でさえシフトが複雑になり情報共有が難しくなっています。では、どうしたら事故が起きた時の情報を、利用者に関わる職員に迅速に漏れなく伝えることができるのでしょうか?「事故速報の活用」をぜひ検討してください。

通常、事故報告書は事故が起きた時すぐにではなく、1日程度経って提出されます。事故状況や対処状況の記録という意味ではそれでもよいのですが、関係職員による事故情報の共有はできません。ですから、事故速報(誰にどんな事故が起きたのかだけを記入する)を作って、関係職員に配布すればよいのです。事故対応を行った看護師は、事故速報を記入してヘルパーステーションやナースステーションのボードに貼り出して注意を促し、できれば居室の床頭台の脇にも貼っておけばさらに徹底できるでしょう。

もともと事故報告書には、さまざまな機能が求められますから、それぞれの機能にあった扱いをしなければなりません。例えば、事故報告書には事故原因と再発防止策を記入する欄があります。ところが、事故報告書は少なくとも24時間以内に提出しなければなりません。忙しい介護職員が集まって24時間以内に事故原因の検証や再発防止策の検討ができるでしょうか?本来1週間くらいかけてじっくり検討が必要なのに、時間が足りないので十分な検討もせずに「もっと見守りを強化する」などと書いてしまうのです。

転倒後経過観察中の利用者にPTがリハビリ施行

1つの入力フォーマットで、「速報」、「役所提出用」、「再発防止検討」、「経過管理用」などいくつもの出力フォームを作れば、各々の機能にあった取り扱いができるようになります。

ところで、事故情報の共有は施設内だけにとどまりません。あるショートステイで転倒し足首を痛めた利用者が、ショートを退所し同じ施設の併設デイの利用を再開しました。ところが、転倒して足を痛めたことを知らないデイのスタッフがレクに参加させてクレームになりました。外部から見ればショートもデイも同じ施設に見えますから、デイでも転倒に対する配慮をしてくれると思ってしまうのです。

トラブルを避ける事故対応

家族から見て「ちょっと考えられない手違い」というトラブルが発生した時は、迅速に再発防止策を説明して納得を得ることが大切です。転倒事故が起きているのに、職員がその事実を知らずに配慮ができなかったとなれば、施設への信頼感を損ねることになりますから迅速な対応が必要です。この施設では、家族に不手際を謝罪した後、新たに作成した事故速報の用紙を見せて「このような帳票を作り情報共有を徹底しましたのでご安心ください」と説明して、家族も納得してくれました。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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