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連載コラム
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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例㉛:経管栄養者が肺炎で手遅れに

こんな事故が起きました!

Sさんは特別養護老人ホームに入所する経管栄養の利用者です。ある日、夜勤職員が巡回していると少し痰が絡んでいることに気づきました。職員はオンコール当番の看護師に電話で報告し、体温が37.8度であると報告しました。看護師は緊急性は低いと判断し、翌日の朝の容態で受診を判断することにしました。ところが、翌朝看護師が出勤してSさんのSPO2(※)を計ると80%とかなり低く、驚いた看護師はすぐに家族に連絡し病院を受診しました。医師からは「肺炎がかなり進行していて危険な状態である」と診断され、Sさんは3日後に亡くなりました。家族は特養を訴えると言っています。
※動脈血酸素飽和度:90%以下になると呼吸不全として緊急受診が必要と判断されます。

事故原因と防止対策

前日の夜、少々痰が絡んで37・8度の体温だったSさんが、なぜ翌朝には肺炎で手遅れの状態になっていたのでしょうか?いくら免疫力が低い高齢者であっても、前日夜に痰絡みに気づいて翌朝受診して手遅れになることは通常ありません。受診した時点で医師も肺炎が進行している状態と判断していますから、痰絡みに気づく以前から肺炎が進行していたと考えなければなりません。では、なぜSさんは肺炎が進行していても高熱を発しなかったのでしょうか?

寝たきりや経管栄養の高齢者のなかには、インフルエンザや肺炎などに感染して発症しても、高熱などの特徴的な症状が出にくい人がいます。ですから、このような利用者に対して、体温だけでなく他の症状にも日常から注意を払い、発症した時、早期の受診につなげて手遅れにならないようにしなければなりません。

すべての利用者に対して同じ対応では、本事例のようなトラブルが発生しますから、ルールを変えなくてはなりません。例えば、ある特養では夜勤帯巡回時の経管栄養者への体調観察方法を次のように定めています。

経管栄養者が肺炎で手遅れに

巡回時には利用者に顔を近づけて表情と呼吸をよく観察する。苦しそうな表情、呼吸の異常を察知したらすぐSPO2などバイタルチェックを行う。呼吸の異常とは、「呼吸が荒い・弱い、激しく咳込む、膿性痰が多くみられる、喉がゴロゴロいう、背部に耳をあてた時呼吸音に雑音が混ざる(肺雑音)」などをいう。

また、この特養では経管栄養者の平常時バイタル値表を作って、バイタルチェックを行った時、平常時バイタル値との差で異常を判断しています。なぜなら、体温、脈拍数、血圧、動脈血酸素飽和度などのバイタル値は、いずれも個人差があり、異常値の判断が難しいからです。例えば、多くの人の動脈血酸素飽和度の平常値は98%程度ですから、90%を下回れば即受診と判断しますが、平常時の値が92%という人も稀にいます。

特養は夜間、看護師がいませんから、介護職員がバイタル値を測定して看護師に伝えます。しかし、体温と血圧だけでは連絡を受けた看護師も判断が難しいでしょう。最近では、パルスオキシメーターによって、利用者の指先を挟むだけで動脈血酸素飽和度が簡単に測定できるようになりましたから、機器を導入して早期に急変に気づくようにしなければなりません。

トラブルを避ける事故対応

特養や老健では、看護師が常駐という前提で、在宅サービスにはない厳格な体調管理を要求されていますが、病院ではありませんから、個別利用者の疾患などへの医療的な配慮の必要はありません。しかし、経管栄養など医療的な配慮が必要な利用者が施設にも増えていますし、今後もこの傾向は強くなります。施設の医療的配慮を巡る家族トラブルは間違いなく増えていますから、今後は医療依存度の高い利用者だけでも、かかりつけ医や嘱託医と連携して、どのような医療的配慮が適切かを家族に説明する必要があります。

※ この記事は月刊誌「WAM」2017年10月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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