第2回:保育分野におけるICT 導入の手順(前半)
本稿では、保育分野においてICTツール(以下、「保育ICT」)を導入する際の手順をとりあげます。弊社が令和4年度に実施した「子ども・子育て支援推進調査研究事業『保育分野におけるICTの導入効果及び普及促進方策に関する調査研究』」では、保育ICTを導入する際のポイントや実際の事例を紹介したハンドブックを作成し、導入手順を5つのステップに整理しました。今回はこのうち、ステップ2までについて解説します(図1)。
図1 保育ICT導入のステップ
保育ICT導入前の「土台づくり」
保育ICTの導入の具体的な検討に取りかかる前に、「土台づくり」に取り組みましょう。ハンドブックでは、土台づくりとして2つのことをおすすめしています。
1つ目は保育について「なりたい姿」を言葉にして園内で考え方を整理・共有することです。第1回でも述べたとおり、保育ICTは「こういった保育を実現したい」という方針や思いを実現するツールであり、導入にあたっては保育の質の向上を常に見据えることが何より重要です。
2つ目は保育ICTの導入前に普段の業務を振り返り、業務フローや分担を可能な範囲で見直すことです。例えば、業務について、「保育者しかできないこと」、「保育者以外でもできること」に分けて、後者は保育補助者にお願いするといった取り組みがあげられます。
アンケート調査でも、導入後に「ICTを使いこなせている」と感じている保育者は、そうではない場合に比べて、「ICTを活用することの目的や意義について、職員間で認識あわせをしている」、「ICTが活用できるように業務の見直しが行われた」という割合が高くなっていました。こうした「土台づくり」を行うことによって、各園にあった形でICTを導入し、効果を高めることができるでしょう。
導入するツールの決定
土台づくりに取り組んでみて、自園がどのような保育を実現したいのか、どのような業務において保育ICTを活用したいのかが見えてきたら、次に、ICTを導入する目的にあわせて、具体的に導入するツールを選びます。
最初は「数多くのツールの中でどのICTを活用すればよいかわからない」と戸惑われるかもしれません。そうした場合は、ハンドブックで紹介している4つのタイプ(目的)(図2)のどれに近いかを考え、各タイプでおすすめのICTツールを検討してみるのもよいでしょう。
図2 タイプ別にみたおすすめのICT ツール
また、保育ICTを導入したい目的によっては、複数のICTツールが検討対象になりえます。例えば、タイプAのように「保護者コミュニケーションを円滑化したい」という場合、保護者とのコミュニケーションといっても、欠席連絡や連絡帳などコミュニケーションの場面は多岐にわたります。そのため、検討対象となるICTツールも、保護者への一斉連絡、連絡帳、ドキュメンテーション、写真撮影・販売など、複数のツールが視野に入ってきます。土台づくりを踏まえながら、具体的な目的に照らして最適なツール(あるいはツールの組みあわせ)を選びます。
保育ICT事業者によって提供しているツールに違いがあったり、操作性・使い勝手が異なりますので、できれば1社だけではなく、いくつかの事業者から話を聞いたり実際に操作画面を試したりして、自園にあったツールを探すとよいでしょう。
≪導入するICTの検討・選定方法≫ (ヒアリング調査結果より)
・最終的に、「使いたい機能が含まれていること」、「保育者・保護者双方にとって使いやすく負担にならないもの」、「年間の維持費がかかりすぎないこと」、「導入している園が多いこと」などを加味して事業者を決定した。
・導入にあたってはすべての機能を一気に導入するのではなく、最初は少ない機能から導入し、2カ月位して慣れてきたら次のサービスを導入するという形で進めていった。保護者からのICT導入への期待も高かったため、保護者にとっても分かりやすいシステムから先に取り入れ、メリットを実感できるようにした。
※点線枠内のヒアリング調査結果は三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育分野におけるICTの導入効果及び普及促進方策に関する調査研究報告書」(令和5年3月)より抜粋
導入の準備・環境整備
導入するICTツールが決まったら、保育ICTの利用環境の確認や予算の確保、園内の導入体制の整備等を行います。
■ 保育ICTの利用環境の確認・整備
導入するツールや保育所等の規模にもよりますが、タブレット等の端末は最低でも各クラスに1台、より効果的に活用する場合は保育者1人につき1台あることが望ましいでしょう。園内のインターネットが有線のみの場合は、保育ICTを効果的に活用できるようにするため、園内のどこにいてもネットワークに接続できるようWi-Fiを整備しましょう。
■ 予算の確保
タブレット等の端末、インターネット環境の整備にかかる費用や、保育ICT事業者に各サービスの月額料金等を確認しましょう。保育ICTが未導入の園では、導入にかかる費用を対象としたICT補助金(「保育所等におけるICT化推進等事業」)等が活用できる可能性があります。導入前に、自治体の保育所管課に活用が可能か、確認してみましょう。
■ 導入体制の整備
保育ICTの導入にあたっては、「わからないことや困ったことがあったときの園内での相談先」として、園内にICT担当者を1人置くことをおすすめします。パソコンやタブレットの操作にある程度慣れている人がよいでしょう。保育者ではなく、事務担当者をICT担当者としている園もあります。
また、保育ICT事業者の問いあわせ窓口も確認しておきましょう。迅速に適切な回答が得られるかどうかでICT導入後の使いやすさが大きく変わってきます。しっかりしたサポート体制があるかは、事業者選定のポイントになります。
このほか、保育ICT事業者等ではICT導入前の必要な準備、計画、設定等に関して研修を行っていますので、そうした研修へ参加することも有効です。
※ この記事は月刊誌「WAM」2024年2月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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