第3回:保育分野におけるICT 導入の手順(後半)
本稿では、保育ICT導入のための手順のうち、ステップ3以降について解説します(図)。また、保育ICT導入の際につまづきやすい点とその対策についてもみていきます。
図1 保育ICT導入のステップ
保育ICTツールの導入
ステップ2で解説した導入の準備が整ったら、保育ICTツールを導入しましょう。ここでのポイントとしては、導入のタイミングでは一時的に負担が増えることを考慮しておくことと、導入時に保育者や保護者へ説明を行うことがあげられます。
ICTを導入するタイミングでは、園児一人ひとりの情報をシステムに登録したり、紙書類で記録してきた帳票等をデジタル化したりすることが必要になり、ルール整備などでも一時的に負担が増える場合があります。加えて保育者等がICT機器に慣れるまで、実際に導入してから3〜4カ月程度かかることもあります。
このため、年度の切り替わりを避けて職員体制や園児の入れ替わりが少ない時期に導入する、複数ツールを導入する場合でも最初は少ない機能から導入し、慣れてきたら次のツールを導入するなど、導入時の負担が過度にならないよう工夫するとよいでしょう。
また、導入時の保育者に対する説明にあたっては、園長やICT担当者が実際に利用するICTの画面を投影して説明したり、園で使い始める前に、保育者がICTツールの操作を練習できる機会を設けたりすることが有効です。保育ICT事業者による説明やデモンストレーションが可能な場合もあります。
保護者に対してもICTツールの導入について説明を行います。保護者にアプリ上で事前の設定をしてもらう必要がある場合には、早めにご案内をしましょう。また、写真や動画の活用方法が変わる場合などは、保護者の同意を得る必要があるケースもあります。その他、保護者にとってどのような違いが生まれるのか、どのようなメリットが期待されるかを意識のうえ、適宜説明をしましょう。
導入後の振り返りと次のステップ
保育ICTを使い慣れてきたら、導入効果について振り返る機会を設けます。振り返りでは、クラスごとや園全体で「導入時に見込んでいた効果は出ているか」、「保育の質の向上につながっているか」という観点で確認を行います。保護者も利用している場合は、あらかじめ保護者の反応を聞いておき、振り返りの場で共有しましょう。
導入から数カ月間は業務削減の効果を実感しにくい時期もありますが、それ以降も導入した効果があまり感じられない、保育の質の向上につながっていないという場合は、より効果的に活用するために改善できることがないか検討しましょう。
≪保育ICT導入による効果の例≫
【保護者コミュニケーションの円滑化】
・お知らせ等の一斉配信により印刷物の準備を含む手間を削減
・ドキュメンテーション(写真つきの記録)を保護者に共有し、保育者との会話で内容に触れることが増加
【請求関係の事務の簡素化】
・登園状況をリアルタイムで確認
・登降園管理システムにより延長保育の管理・請求を簡素化
【保育・監査等の記録の効率化】
・保育日誌のデータ共有や指導計画への転記により業務負担を軽減
【一人ひとりの成長をより丁寧に見守る】
・保育日誌から個々の子どもの記録数の差や活動領域の特徴をデータで蓄積し、振り返りに活用
振り返りができたら、保育ICTを用いた業務フローの見直し・改善や、必要に応じて新たなツールの導入を検討するなど、ICT導入の効果をより高めるための次の施策を検討するとよいでしょう。保育ICTをより効果的に活用する方法として、各種ツールで取得したデータの連携があります。例えば登園・降園のデータや体温計測等のデータ、保育中の写真撮影を複数の場面で活用すれば、活用の幅が広がります。このような連携を行うには一つの保育ICT事業者のサービスに集約が必要になることもあるため、具体的なデータ連携の可能性等については、事業者に確認してみるとよいでしょう。
つまづきポイントとその対策
最後に、保育ICT導入の際につまづきやすい点とその対策についてご紹介します。
お悩み@
施設長の理解が得られない
施設長が保育ICTの活用イメージをもてていない場合、まずはふだんの会話のなかで「こんなツールがありますよ」と話して、子どもの安全の確保や子どもと接する時間の増加、より丁寧な一人ひとりの成長の見守りができるものがあるなど、メリットを知ってもらうことから始めるとよいでしょう。
また、保育ICTを導入していない理由として、導入が進んでいない園では施設長等の約半数が「ICT等の導入コストがかかる」ことをあげています。資金面に関しては前回ご紹介した補助金等を活用できる可能性があるほか、ペーパーレス化により経費節約になることなども伝えてみましょう。
お悩みA
職員全員がICTを活用できないのではとの不安から、導入に踏み切れない
保育ICTを導入しても全員が活用できるようになるかという不安から、なかなか導入に踏み切れないという園もみられます。ただ、実際にICTを活用している園でも、必ずしも導入した当初から職員全員が使いこなせたり、一人一台のタブレット等を整備していたわけではありません。
ICTが得意な職員が一人もしくは数人おり、そうした職員から苦手意識がある職員に活用のコツを伝え、徐々に全員のリテラシーが向上していったという事例や、実際に活用していくなかで便利な利活用法が見つかり職場で共有したという事例も多々みられます。うまくいっている園をみると、ICTについて若手職員と年配職員が相互に教えあう風土ができており、職場のコミュニケーション活性化にもつながっています。
お悩みB
現場の保育者の理解が得られない
現場の保育者はICT導入によって現在の業務が否定されるのではないかと感じたり、操作に苦手意識を持っているため、導入に消極的な場合があります。そうした場合は、業務をすべてICT化するわけではないことや、一般にICTツールの使い方は難しくなくやがて慣れる人が多いこと、わからないことがあれば問い合わせ窓口があることなどを伝えましょう。不安を和らげるためには施設長からではなく、身近な同僚を通じて声をかけてもらうことも効果的です。
「保育分野におけるICTの導入効果及び普及促進方策に関する調査研究報告書」や先述のハンドブックでは、保育ICTの導入経緯や課題をどのように乗り越えたか、ICT活用のノウハウ等について具体的な事例を紹介しています。より詳しく知りたい方はそちらもご覧いただき、自園にあった保育ICTの導入・活用を進める際の参考にしていただければ幸いです。
※ この記事は月刊誌「WAM」2024年3月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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