退院支援加算が地域連携の軸の点数
最終回では地域連携に関する経営的な側面についてみていく。まずは、診療報酬上どのように地域連携が評価されているのか考えてみる。地域連携パスを評価した診療報酬である「地域連携診療計画管理料」が初めてできたのは平成18年度改定である。そこから5回の改定を経て、紆余曲折しながらも平成28年度改定で連携に関する診療報酬は一定の形が定まったのではないだろうか。
この改定で退院”調整“加算から退院”支援“加算という名称にリニューアルした点数の要件をみると、退院支援・地域連携に求められているあり方がわかる(図表)。
まずは施設基準となっている人的資源については、上位加算である1を届けるには@退院調整部門(いわゆる地域連携室)に専従者1名に加え、A2病棟まで担当可能な退院支援業務に専従する者を1名配置しなければならない。人員配置の問題になると、加算点数だけでペイするのか、という点が常に議論される。本来は病院機能にとって必要なら、人材を配置すべきであり「収益は後からついてくるもの」と、格好よく言いたいところだが、実際に経営する立場からすると、個々の点数の収支を考慮せざるを得ないのが事実であろう。@の人材は地域連携全体の成績でみるとして、Aの人員分の人件費がペイするのか。年収300万円、月25万円の収益を退院支援加算1(一般病棟600点)で得ようとすると月42
件の算定が必要になる。2病棟で週に約10件程度の退院患者に関与できるかどうか。ある程度の回転数がある病院であれば加算点数だけでペイさせることは不可能ではない。ただし、療養病棟の場合は1200点と点数は倍になるが、2病棟で週に約5件の退院患者に関与することが必要となり、かなり高回転な運営になる。現実的には達成できる病院は少ないのではないだろうか。
次に、どのような運用フローが求められているかをみていく。まずはカンファレンスについてである。退院困難な患者さんを3日以内にスクリーニングし、7日以内に患者・家族とのカンファレンス、多職種とのカンファレンスの実施が要件となっている。スクリーニングを実施するのは、病棟看護師(師長もしくは受け持ち担当)、連携室の専従者(前述の@)、病棟専従者(同A)、が候補であろう。誰がやっても問題ないが、判断者の基準を統一するためにもAが行うことがわかりやすいと思われる。7日以内の患者・家族とのカンファレンスについては、急性期病院では平均在院日数が10日前後のところも少なくなく、入院時の説明の際に退院のゴール設定を説明するのが、最も現実的であろう。この短期間に患者・家族を再度集めようと思うと”全例実施“は不可能になりかねない。多職種カンファレンスもその都度号令をかけるのは手間がかかりすぎる。主治医は患者さんに応じて変わるとしても、他のチームメンバーは病棟担当などを設けて、週1回程度の定例会議を実施するとスムーズであろう。
その他の点数で求められる連携体制
退院支援加算を軸にした体制を構築したうえで、さらに地域連携に関する診療報酬を確認することで、あるべき姿が整えられる。まず、入院直後のスクリーニングについては「総合評価加算(入院中1回100点)」がある。高齢者の基本的な日常生活能力、認知機能、意欲等を総合的に評価することが必要とされる。退院支援加算の3日以内のスクリーニング項目や認知症ケア加算(平成28年度改定で新設)のスクリーニング項目などをすべて盛り込み、入院時に必要なチェックをすべきであろう。
次に、院外とのやり取りについては、入院中にケアマネジャーと情報共有をすることで「介護支援連携指導料(400点)」を入院中2回まで算定できる。介護保険の新規申請や変更についてはポストアキュートの病院だけの仕事ではなく、急性期病院から動き出すことでより早期に結果が得られ、急性期〜慢性期までの全体の在院日数をスリム化することにつながる。なお、この点数の一定以上の算定件数が退院支援加算1の届出要件にもなっている。後方支援病院や診療所の医師、看護師など医療者を交えたカンファレンスがあれば「退院時共同指導料(1:1500点、900点、2:400点)」が算定できる。カンファレンスに参加した職種や人数等により算定点数が異なるので、詳細を確認しながら算定につなげたい。
入院中や退院後に院内の医療スタッフが外に出た場合の点数も設けられている。「退院前訪問指導料(580点)」は退院前に患者さんの家に訪問して、患者さんが家に戻った後の情報を得ることで、入院中に必要な指導につなげることが評価されている。退院後に訪問する場合には「退院後訪問指導料(580点)」があり、さらに訪問看護ステーションと連携することで「訪問看護同行加算(20点)」が追加される。退院後にもしっかりと介入することで、再入院を減らしていくことが要求されている。
医療面の連携においては地域連携パスが退院支援加算1への加算として「地域連携診療計画加算(300点)」が設けられた。これまでのように大腿骨や脳卒中など疾病が限定されていないので、地域ぐるみで医療の標準化ができている領域から算定につなげていきたい。こうした、退院支援や地域連携に関連する診療報酬を算定していけば、地域連携室は収益部門にすることができる。連携室の人材を手厚くすることに否定的な管理者に対しては、しっかりとそのことを伝えて人員を充足していきたい。
自ずと増える他医療機関とのカンファレンス
さて、前述までの診療報酬に必要なやり取りを地域と行っていけば、自ずと接点が増えていくはずである。こうした接点が増えていくと、お互いの医療機関の強みや弱みが伝わり、よりスムーズな患者さんの紹介につながっていくはずだ。退院支援加算1の施設基準で、20以上の医療機関や介護事業者とそれぞれ年に3回以上の面会が求められている。平均すると最低でも週に1回以上ということになるが、特別に面会を増やしていくというよりは、しっかりとした患者さんの情報やお互いの組織としての情報をやり取りしていれば、このくらいの面会数は達成しているものである。その回数が足りないということは、まだまだフットワーク軽く、地域の医療機関や施設とのやり取りができていない、ということであろう。もちろん、代表者が表敬訪問をするような段階は数年前に過ぎている。より具体的な情報のやり取りのための訪問を早々に始めたい(事例は本連載の第2、3回目を参照)。
これまで6回の連載で地域連携に関するあるべき姿や事例をお伝えしてきた。経営戦略から人材育成やチーム医療のあるべき論など、幅広くお伝えできたかと思う。すぐ動けるようにできるだけ具体事例も伝えるように心がけたつもりだ。ただし、具体事例になればなるほど、よりよいやり方が次々に生まれてくるものである。実際に、この原稿を執筆している5カ月の間に、筆者の医療機関でも原稿に書けていない新しい取り組みが複数進んでいる。こうしたトライアンドエラーを積み重ねて、各地域の連携が進み、地域包括ケアシステムが構築されていくのであろう。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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