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介護施設でのロボット・ICTの導入

全6回に渡って、介護施設でのロボット・ICTの導入の現状やポイントについてをお届けします。


<執筆>
  国際医療福祉大学大学院
  福祉支援工学分野 教授 東畠 弘子 氏


第1回:介護ロボット活用のカギは

 筆者は大学院で福祉用具領域の教員をしています。この10年間に福祉用具の開発は進んでいますが、もっとも進んだのは介護ロボットです。高齢化が進み介護人材の確保が急務の中、2016年6月に「日本再興戦略」が閣議決定され「現場のニーズを反映した使いやすいロボット等の開発支援やロボットやセンサー技術の介護現場への導入をさらに進める」と、開発支援に力が入りました。

 さらに2021年6月に閣議決定された「成長戦略」では、「ICT、ロボット、AI等の医療・介護現場での技術活用の促進」の中で、「試行実証施設でのケアの提供モデルを構築し、介護現場での実証を行うとともに、効果の確認が得られたモデルを全国に普及・促進する」と開発から実証段階へ踏み込む文言が入っています。成長戦略の工程表では次期介護報酬改定での評価も明示されています。

 このような状況から、「介護ロボット」に対する関心はこれまで以上に高くなり、筆者も質問を受けます。しかし残念ながら、「使ってこんなに良かった」という段階の話より、「本当に使えるの」、「そもそも介護ロボットって何?福祉用具とどこが違うの」といったお尋ねのほうが多いのです。

介護ロボットは幅広い

 さて、介護ロボットとは何でしょうか。福祉用具と違うのでしょうか。これについては厚生労働省の資料によると、次のように定義されています。

1.ロボットの定義とは

 情報を感知(センサー系)

 判断し(知能・制御系)

 動作する(駆動系)

 この3つの要素技術を有する、知能化した機械システム。

2.ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を介護ロボットと呼んでいる。

1.の部分は、介護ロボットの定義ではなく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「NEDOロボット白書2014」によるロボットの定義です。つまり?の部分、利用者の自立支援や介護負担軽減に役立つということが、介護ロボットである所以といえます。

 介護ロボットに関しては、経済産業省と厚生労働省が開発重点分野を特定し、2013年度から開発助成を実施しました。介護職員の負担軽減を目指した直接的な介護動作に関する開発が主でした。

 2016年12月の厚生労働省社会保障審議会介護保険部会は介護保険制度の見直しに関する意見の中で、「介護現場におけるロボット技術の活用により、介護の業務負担の軽減を図る取組や、介護記録の作成・保管等のICT化を通じて事務を効率化すること」と事務の効率化も求めました。前述の開発分野にも2017年には「介護業務支援」、「動作支援」等が追加されました(図)。介護業務支援とは、見守り・排泄などの情報を集約する間接業務です。そうなると介護ロボットの範疇は直接・間接業務にわたり、かなり幅広いといえます。

 つまり、福祉用具と介護ロボットの線引きは、特にはないということです。福祉用具法が制定された1993年にはロボット技術による介護という発想はなかったので、介護ロボットという言葉がないのは当然です。他方、介護ロボットの目的を考えると、自立支援、介護負担の軽減ですから、福祉用具と何ら変わりはありません。

心理的ハードルを下げよう

 介護保険施設では介護用ベッドや車いす、特殊浴槽などは施設の備品として開設時に用意しています。福祉用具は施設として当然に備わっているものなのに、なぜ、介護ロボットというと、導入に尻込みするのでしょうか。もちろん介護職員の腰部負担軽減のための装着型ロボットや自律移動ロボット、話しかけると応えるコミュニケーションロボットなどは、新たに施設に導入するには事前に研修が必要ですが、介護ロボット導入にありがちな「役に立つのか」、「使いこなせるのか」という、心理的ハードルを経営幹部には下げてほしいと思います。

 例えば移動用リフトは1990年代から特別養護老人ホームの一部では、すでに使用されてきました。移動用リフトはロボット技術を用いた介護ロボットであり、福祉用具です。先駆的に導入した施設にとっては30年も前からの実績があるはずです。介護ロボットというと、先進技術の総体と難しく考えるかもしれません。効率化できるかと懸念もあるかもしれません。そのときは「労働安全」の観点から検討してはいかがでしょうか。

 厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」によると、人力のみで持ち上げる際は18歳以上の男性で体重の40%以下、女性は男性が持ち上げられる重量の60%とされていますから、女性職員の2人介護での移動・移乗は、労働安全の観点から見ると問題であり、リフト等の機器の使用は必須になります。腰痛防止といいますが、職員の『労働安全』の観点です。

 「それならうちの施設では、前から使っている」と思われるかもしれません。知らないうちに導入していた、というのがあったとしたら、介護ロボットに対する抵抗感(があったとしたら)も減るのではないでしょうか。

表1

活用のカギは、安・近・単

 「助成金をもらって導入したけれど、どうも…」ということもあるかもしれません。

 これは移乗・移動という直接的な介護に使用するロボットの場合、数台導入したときの効果が「何と比較するのか」によって異なるからです。使用前・使用後の比較として効果を感じても、施設全体では、業務負担が減らない、と効果が実感されないこともあるからです。

 前述の移動用リフト、あるいは歩行支援カートでも、1人1台の使用の場合、使用しない人に対しての介護は従来と同じになります。つまり施設の中で、従来の介護と介護ロボット利用とが混在することになります。リフトやカートは、使うときに居室に持ってくればよいのですが、その「持ってくる」というのも、忙しい職員にはひと手間になります。筆者のゼミの大学院生が、なぜ移乗用具の利用は進まないのか、という問題意識から調査(注1)をしたことがあります。それを集約すると、モノと研修の2つで課題がありました。1つは、居室に備わっていないと使用したいときにできない。保管庫まで取りに行くのが大変ということです。次に使用の際の研修です。夜勤や交代勤務の中で、外部研修には出にくく、行ったとしてもリーダー的な人になります。その後の介護職員全員の共通化までは難しいかもしれません。これは介護ロボットの導入にもいえることではないでしょうか。

 旅行の傾向を指す言葉に「安・近・短」があります。「費用が安く、距離が近く、日程が短いこと」(注2)ですが、筆者は介護ロボット活用の鍵は、安・近・単と考えています。安全で、手近にあること、そして短時間の研修でできて操作が簡単、の3点です。安全で操作が容易であることは開発側への注文でもありますが、導入時には、手近というのもお考えいただければと思います。


(注1)相澤浩美 脊髄損傷患者に関わる医療・介護職員の移乗用福祉用具に関する認識- 使用状況から考える課題-平成26年度国際医療福祉大学大学院修士論文

(注2)コトバンク デジタル大辞典

※ 2022年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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