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介護施設でのロボット・ICTの導入

全6回に渡って、介護施設でのロボット・ICTの導入の現状やポイントについてをお届けします。


<執筆>
  国際医療福祉大学大学院
  福祉支援工学分野 教授 東畠 弘子 氏


第2回:見守りセンサーの導入とファシリテーターの必要性

介護保険施設での見守りセンサーの導入

 介護施設での介護ロボットやICTというと、何を思い浮かべるでしょうか。その対象は幅広いと第1回でも申し上げましたが、介護労働安定センターの調査(注1)を見る限り「見守り支援機器(見守りセンサー)」のようです。

 同調査によると介護ロボットの導入は全体では「見守り・コミュニケーション(施設型)」が3・7%で最も高くなっています。これは「見守り支援機器(見守りセンサー)」のことです。介護職員の腰部負担を軽減する「移乗介助(装着型)」は1・5%、記録ソフトともいえる「介護業務支援」は1・3%で、「いずれも導入していない」が80・6%となっています(表)。

 しかし、介護保険施設にあたる「施設系(入所型)」に限ると、「見守り・コミュニケーション(施設型)」は16・6%と二桁になり、「いずれも導入していない」は60・9%と下がります。

 2018年度の介護報酬改定では特別養護老人ホームにおいて、見守りセンサーを導入した際は、夜勤職員配置加算は1名分の人員配置となっているところを、「0・9人」の配置にしました。実証調査では見守りセンサーの導入施設と、していない施設の比較では夜勤者1人当たり約17分の業務時間減少でした (注2)。

 見守りセンサーを導入した場合の夜勤職員の心理的影響についてストレス反応尺度での前後比較では、導入後は「弱い」という回答が増え、「やや強い」と回答した割合が減りました(図)。また、業務内容をみると見守りセンサーの導入で「訪室しなくても利用者の状況がわかる」、「利用者の行動パターンの把握ができる」という回答が多く、センサーの特性による効果を感じさせられました。

 また全国老人保健施設協会(老健協会)の会員への調査(注3)によると、「見守りセンサー」は、22・5%が「導入している」と回答しています。「今後検討したい」は46・9%でした。このように、今後はますます見守りセンサーの導入が進みそうです。

表2

(注1)介護労働安定センター 令和2 年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書 2021

(注2)厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会第192 回 資料2

見守り支援機器とは

 センサーなどを利用した介護施設での見守り支援機器は、開発重点分野として開発と実証実験が進められています。その条件(注4)は@複数の要介護者を同時に見守ることが可能、A施設内各所にいる複数の介護従事者へ同時に情報共有することが可能、B昼夜問わず使用できる、C要介護者が自発的に助けを求める行動(ボタンを押す、声を出す等)から得る情報だけに依存しない、D要介護者がベッドから離れようとしている状態または離れたことを検知し、介護従事者へ通報できる、E認知症の方の見守りプラット・フォームとして、機能の拡張又は他の機能・ソフトウェアと接続ができる、ことです。

 これまでも呼び出しボタンは、介護ステーションへの連絡として使われていましたし、ベッドから降りる際の足元に敷くセンサーマットは、利用者の転倒や認知症の方の徘徊の検知に使われてきました。しかし、通報は多くの場合、介護ステーション1か所になります。介護職員はフロア内を動き回っていることを考えると、「施設内各所にいる複数の介護従事者へ同時に情報共有」できる機能は、職員の負担軽減と利用者の安全を守るためにも有効と考えます。そうなると「他の機器・ソフトウェアと接続ができる」という点は重要です。タブレット端末を利用することで情報共有ができるからです。

表3

課題はコスト・費用負担と、使いこなすヒト

 導入効果は理解していても、いざとなると課題はあります。前述の介護労働安定センターの調査では、「導入コストが高い」が最も多く、60・5%で、次いで「投資に見合うだけの効果がない」が40・0%でした。これが介護保険施設に限定すると「導入コストが高い」は77・3%とさらに高くなりますが、「投資に見合うだけの効果がない」は29 ・6%に下がります。

 「技術的に使いこなせるか心配である」は全体では33・6%ですが、介護保険施設では42 ・8%と10ポイント近く上回ります。つまり効果はわかるけれど、費用負担が問題だ、ということになります。

 前述の老健協会の報告書では導入の阻害要因として「予算の確保ができない」が最も多かったのですが、次いで「詳しい職員がいない」が多くなっています。費用の問題は最大の課題ですが、助成金があったとしても、見守りセンサー等の機器を使いこなせる職員の有無が問題ということです。これらの調査から見えるのは(お金の問題はひとまず置くとして)、職員が使いこなせるかということになります。

 この点については、筆者は施設でのけん引役の存在が必要と考えます。もちろん管理者の導入意志が前提ですが、現場の意識が動かなければ活用は望めません。そこにファシリテーターの存在が大切になってくると思います。ファシリテーターは会議などでの進行役と思いがちですが、この場合は、現場の介護ロボットリーダー的な意味です。例えば見守りセンサーを導入しても、その情報共有のためのタブレットを使いこなせるかということもあるでしょう。若い職員のようにはできないという声も、あがりそうです。そうなると、見守りセンサーよりもタブレットが障壁です。

 筆者の言うファシリテーターとは、導入前は、なぜ必要なのかを職員皆で一緒に考え、導入当初は慣れない職員へのデジタルサポートもできる存在です。フロア長、介護リーダーというベテランに任せるのではなく、若手の中から得意な人を抜擢するのもよいかもしれません。筆者はシステムエンジニアから介護職員に転身した人を知っていますが、介護現場をよく見ると、さまざまなバックボーンを持つ人がいます。その人材を眠らせてはいけないとも思うのです。

(注3)全国老人保健施設協会 介護老人保健施設におけるIoT 等の活用の可能性に関する調査研究事業報告書

(注4)テクノエイド協会 介護ロボット重点分野別講師養成テキスト 移動支援機器(屋外)/見守り支援機器(介護施設) 2016

※ 2022年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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