日本は周知の通り高齢社会に突入しています。高齢化割合は2020年時点で28.8%に達しており、2035年には32.8%、2065年には38.4%に達すると推測されています。遠くない未来において、国民の約2.6人に1人は高齢者になるという現実が差し迫るなか、我々はそのような新しい環境下においても、持続的に介護サービスを提供できる社会を創造していかなくてはなりません。そこで、まずは持続的に介護サービスを提供できる社会をつくるため、我々が取り組むべき具体的な課題を主に2つあげてみます。
介護給付費の増加
1つ目は、介護サービス需要が急激に高まることに伴う介護給付費の増加です。介護保険制度開始当初の2000年から2019年までの約20年で65歳以上の被保険者数は約3,500万人と約1.6倍に、要介護(要支援)認定数も約660万人と約3倍に増加しています。こうした介護需要の増加により、国の介護給付費の総額は一貫して増加傾向にあります。介護給付費の総額は介護保険の創設当時で約3.2兆円でしたが、現在はこれが約10兆円まで増加し、将来的には約25兆円規模にまで増加するという試算がされています(図1)。また、国の介護給付を支える介護保険に関しては、65歳以上の第1号被保険者と40歳以上の第2号被保険者の保険料で賄われていますが、これらの保険料は年を追うごとに増加し続けています。例えば、第1号被保険者の保険料は当初約2,900円(月額・加重平均)でしたが、現在では約5,900円まで増加して、2倍以上の額にまで膨れあがっています。 同じく、国の介護給付に占める公費(税)負担部分に関しても、同様に支出の増加が見込まれるなか、持続的に介護サービス提供を続けるため、どのようにしてこれらの財政支出を最小限に抑えるべきかさまざまな場所で議論されています。
介護職員数の不足
2つ目は介護人材の不足です。実は近年では介護サービスの多様化と量の拡大に伴い、介護職員の数が年々増加しています。国の統計調査によると、介護保険給付対象の事業所において、介護保険創設当時には介護職員の数は約55万人でしたが、2017年には約187万人にまで増加しています。しかしながら、先にも記載した通り、介護サービスの需要増加は著しく、多くの事業所においては慢性的な人手不足に悩まされています。全産業の有効求人倍率が1.5倍程度となっているのに対し、介護関係の職種では4.0倍以上となっており、介護業界における人材の確保は非常に困難である現状がうかがえます。事業所によっては、とくに介護人材の確保が困難な地域において、最低限必要な労働力を確保できないことを理由に、一部サービスの開始延期や休止を実施する事例も発生しています。国全体でみると、介護サービス需要から必要とされる介護職員の人数は、2019年の約211万人から2025年には約243万人、2040年には約280万人にまで増加することが試算されています(図1)。
以上、2つの課題に関する対応策は政府内でも多くの議論がされています。例えば、国の経済財政諮問会議などにおいては、これらの課題に関して2つの対応策が示されています。1つ目は、高齢者の健康寿命の延伸です。こちらは、高齢者の健康寿命が延伸されることで、医療・介護保険サービスの費用が低くなることを意図しています。しかし、この効果については、まだ科学的な見地に基づいた立証が十分とは言いきれず、専門家の間で議論が続けられています。2つ目は、主に介護職員数の不足解決を目指した、医療・介護保険サービスの生産性の向上による、人的資源投入量の効率化です。これは言い換えると、介護業界において介護職員数そのものを増やすのではなく、介護オペレーションの改善により1人当たりの介護職員が担えるサービス量を増加させていくという試みです。では、既存の介護オペレーションに変革を起こし、効率的な介護サービス提供の試みはどのように達成されるのでしょうか。これに対する答えの1つが本稿のタイトルにも係る介護業界におけるICT機器導入です。
社会福祉法人善光会では、10年以上にわたり、ICT機器やロボットを活用した新たな介護オペレーションの開拓を模索し、これまで延べ130種類以上におよぶICT機器やロボットを法人内施設で試用または活用してまいりました。これらを活用することで、サービス品質を維持または向上させながら、介護オペレーションにおける生産性を向上させてきました(図2)。
具体的には、ICT機器やロボットを活用する以前の弊会においては、現場職員と入居者の人員配置比率は平均的な値であり、総労働時間が現在より約35%高く推移していました。現在は、介護の質を下げることなく、この人員配置比率を可能な限り引き上げ、総労働時間も短縮しています。
もちろん、ICT機器やロボットは期待される効果を鵜呑みにして、安易に導入するものではありません。介護オペレーションのどこに課題があり、解決後のありたい姿はどのようになっているのかといった、さまざまな事柄が突き詰められた後に導入するものです。しかし、ICT機器やロボットは適切な導入過程を経て活用されると、個々の利用者や介護職員に利益をもたらし、ひいては社会全体が抱える介護職員数の不足解消にも貢献することが期待されます。
※ この記事は月刊誌「WAM」2022年10月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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