昨今の介護機器は技術の進歩による機能向上により、単体の利用でも業務効率改善に大きな影響を与えるものも多くあります。とくに介護ロボットやセンサー等は機器間で相互に通信を行うことにより、多くの連携機能が使える場合も少なくありません。
本稿では通信環境構築例や内容の一部を紹介しながら、施設でどのようなネットワークを組めばよいかを参考例として紹介します。
インターネット通信環境の構築について
施設内でインターネットを利用したサービスを導入する場合、法人として利用するからそれなりの物を、と身構える必要はなく、一般販売されているインターネット接続機器でも機能としては十分です。光回線では複数の取り扱い業者があり、法人向けと一般向けと分かれていることから、何を選んでよいか迷ってしまいますが、昨今は一般向け光回線サービスでも十分法人利用に耐えられるレベルにあり、特段の事情がない場合は利用地域で一般販売されている回線で問題ありません。
なお、複数施設を運営している場合などは、VPN接続等で施設間を同じネットワークとして扱うようにする設定や拠点間接続サービスの利用が必要となってきますが、施設規模及び通信量などで個別に構築するものであるため、これに関しては専門の業者への依頼が必要になってきます。
機器間の接続方法
機器をネットワークに接続する場合、直接ケーブルで接続する「有線方式」とWi-Fi等で接続する「無線方式」の2種類があります。有線で接続すると通信は安定しますが、電源以外の接続ケーブルを張り巡らせるため、業務の邪魔となり利用者が転んでしまう等の事故につながりかねません。対してすべての機器を無線で接続すると、容易にネットワーク化できますが、機器のWi-Fiの接続規格や接続台数が多く機器の要求する通信速度に満たない場合や、接続する機器のアクセスポイントまでの距離が遠く、速度が遅くなる等が発生する場合があります。どちらの接続方式が優れているというものでもなく、接続する機器の特徴や配置場所など使い方によって適切な接続方式を選択する必要があります。
ネットワーク構築と通信機器の選び方
施設内の通信環境整備といっても、すべて専門業者でなければ設置できないという特別なものではなく、基本構造は家庭用のインターネット環境と同様です。ただし、施設全体もしくは複数施設を跨ぐような構成を行うには、家庭用で販売されている機器では接続できる機器の許容台数が少ないため、安定運用もしくは利用することすら難しくなります。一般販売されているネットワーク機器の中には「法人用」や「戸建」と書かれたものがあります。これは法人利用と家庭利用では接続する機器数とやり取りする情報の量にかなりの差があるためこのように区別されていますが、施設内の機器を接続しインターネット接続するという基本機能のみの利用であればどちらを利用しても性能に差はありません。
導入する機器の性能はよいに越したことはありませんが、導入費用を抑えながら安定運用を行うためには、実際に使用する機器の数量や通信量を検討したうえでのネットワーク機器の選択が必要です。介護現場で使うネットワークはこれと決められた形があるものではなく、施設の種類や機器数等の規模、そこで働く従業員の使い方によっても大きく変わってきます。
前述のように文章で記載されても、自分の所属する施設ではこのような構成がベストだといった想像は難しいかと思います。一般的な構成例の一部を2例紹介しますので参考にしてください。
ネットワーク利用に際しての注意点
有線接続の場合は物理的に「接続させない」ことによりリスク回避が可能です。対して、無線接続の場合は無線機器の特性としてアクセスポイント名(SSID)を圏内にあるネットワーク機器に通知を行うため、外部から接続されてしまうリスクが存在します。接続する際にはアクセスポイント名(SSID)と暗号化キーの2つを使いますが、最低限のリスク回避としてSSIDは無機質なもの、パスワードは16文字以上や数字記号を混在させて使用することを推奨します。
なお、前述した内容はどちらも「(外部から)接続させない」ことを主眼としています。これ以外にもアクセスポイント名(SSID)をネットワーク上に表示させないという設定や、接続されたとしても通信ができないようにするといった構成を行う事も実際には可能です。ネットワーク上に流れる情報には利用者様の個人情報も含まれるため情報漏洩対策のセキュリティ対策強化は重要ですが、対策を行ったぶん業務オペレーションが制限されることもあるため、そのレベル感は機器の利用者となる現場との調整が必要になってきます。
運用にあたっての注意点
ネットワーク化された機器の利用で業務オペレーションを最適化すると、機器の故障が発生した場合に業務停止範囲は広くなってきます。業務停止時間を少なくすることはできますが、完全になくすことはできません。したがって、機器の故障を前提とした運用設計を構築することが必要であり、被害を抑えるためにも構築段階からできる限りの対策をしておくことが重要になります。機器としての可用性をどこまで追求するかは構築ベンダを含めて費用との兼ねあいになりますが、影響範囲の確認やトラブルを確認する準備のための環境構築、機器の接続状態の理解は利用者側でも可能です。
機器の故障等トラブルが起こった際にすばやく対処するためには、ネットワーク全体構成や運用管理方法のマニュアル化や準備が必要です。マニュアル化により復旧作業の工程や故障部の確認方法を把握できるようにしておくと、責任者ならびに管理担当者が実施する通信環境の保全に役立ちます。トラブルが発生してしまうと、現場判断でのオペレーション変更などの対応が必要となり、それによりさらなる事故が発生しやすくなります。大きな損失を出さないために、トラブルが起きた際の影響と対応を事前に把握しておくことは重要となります。
※ この記事は月刊誌「WAM」2023年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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