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介護現場でのICT活用
〜企画・導入・運用〜


 全12回に渡って、介護施設でのICTの導入における企画・導入・運用のポイントについてをお届けします。


<執筆>
 社会福祉法人善光会 理事 宮本 隆史 氏


第12回:科学的介護の実践に向けた介護データの活用について

 第11回目では、科学的介護を実践するために必要なLIFEの概要から導入までについて解説しました。今回は、このLIFE等に蓄積される介護データをどのように介護事業所で活用するのかについて記載します。先に結論から申しますと、現状の介護事業所におけるデータの活用は、LIFEのようなシステムによってではなく、各々の介護事業所の独自の試みによって達成されます。なぜなら、介護データを蓄積するシステムはデータの全体平均と各施設の値を比較表示するなどの機能にとどまっており、データの中身を具体的に解釈するには至っていないためです。本稿では、社会福祉法人善光会(以下、善光会)の介護データ活用の現状と、将来の活用方法について、記載します。

現状の介護データの活用方法

 善光会では、LIFEが開発される以前より、被介護者の健康状態を独自の項目で定量的に評価し、評価結果を議論することで、科学的介護の目的を達成することを目指してきました。この善光会独自の評価スケールは通称MCI(Motivative Care Index/モチベーティブ・ケア・インデックス)と呼ばれています(図1)。MCIの評価項目については、LIFE導入以前から作成されているため、完全一致はしていないものの、LIFEもMCIと同様に、BI(Barthel Index/バーサルインデックス)やVI(Vitality Index/バイタリティインデックス)等、国際的なヘルスデータの評価スケールを採用して設計しているため、多くの項目において、類似点が見受けられます。 MCI

 MCIは全部で10個の大項目から成り立っており、各大項目はそこからさらに小項目に分けられ、小項目ごとに利用者の評価が行われています。この指標は、BIやVIといった各評価指標を統合したうえで、評価項目の点数の重みを変更したり、それらには評価のない項目を加えたりしています。また、評価の方法についても、より介護現場の視点にあわせた評価を実施するために、既存の指標と同じ項目を評価する際、評価の基準を変更しています。

 このように評価項目と評価基準を体系化して被介護者の健康状態を定期的に測定すると、介護職員は被介護者の健康状態の変化をさらに意識するようになり、状態の維持・改善に向けた話しあいは、より活発かつ具体的に行われるようになります。なお、このような取り組みをまだ実践していない場合は、MCIを模した独自の指標を用いたり、LIFEの評価項目をそのまま用いることも有効な手段であると考えられます。

将来的な介護データの活用方法

 ここまで、各々の介護事業所が科学的介護を実践する方法の一例として、善光会の取り組みを紹介しました。しかし、この介護データの活用方法は以下の2つの理由から、まだ科学的介護を実践しているとはいえません。

@ 健康状態の変化に対する解釈の困難性
 介護職員は被介護者の健康状態を2時点間で比較することで、その変化を把握することができます。しかし、この評価項目の値は介護現場におけるパフォーマンスの成否を判断する材料にすることができません。なぜなら、介護事業所ごとにサービスを提供している被介護者の年齢や介護といった状態が異なるため、健康状態の変化が介護的ケアと介護的ケアとは別の要因のうち、どの要因のものか判断がつかないためです。つまり、被介護者の健康状態の変化に対して次に行う働きかけに変化をもたらす必要があるか、定量的な根拠に基づいて判断できないことになります。

A 健康状態の維持改善に向けたケアの妥当性
 被介護者の健康状態を評価した後は、本人の希望やケアプランに沿った形式で、該当項目の値の維持改善に向けたケアを実施します。しかし、ここで提起されるケアは介護職員同士による討議と合意形成に基づいている一方、妥当性を確保するような根拠を見出すことは困難です。なぜなら、介護職が実施しているケアの内容が定量的に現場で蓄積されたり分析されたりする環境が、介護現場では整備されていないためです。つまり、健康状態の改善に向けたあらゆる働きかけは、これまでの経験や一般的見地に基づいて決定されており、@と同様に定量的な根拠に基づいて実施できないことになります。

 これらを解決するため、善光会は@の課題に対して、介護アウトカムの試算、Aの課題に対して、介護アウトカムの改善に役立つケア要因の特定をそれぞれ実施し始めています。

 介護アウトカムの試算とは、被介護者の健康状態の変化に対して、それが改善の余地がある値なのかどうかを判断する指標を明示することを意味しています。本稿においては、この試算方法に詳しく触れませんが、自分の事業所のデータだけではなく、他の事業所の被介護者のデータをあわせて分析することで、自分の事業所にける被介護者の健康状態の変化を相対化(比較的に良いか悪いかを判断)できるようになります。

 介護アウトカムの改善に役立つケア要因の特定とは、その名の通り、試算された介護アウトカムを改善するために介護職員が実施するべきケアを根拠に基づいてみつけることです。これを実施するために、善光会内ではLIFEおよびMCIによって取得された被介護者の健康状態のデータと介護記録ソフトに記録された介護職員のケアのデータを同様のデータベースに蓄積し、これらを統計的に分析しています。分析の結果、健康状態の変化に寄与する可能性の高い介護職員のケアを徐々に特定し始めています。

 以上のように、それぞれの課題に対して策を講じていくと、図2で示すような介護の新しいPDCAサイクルが実現できる可能性が生じてきます。(Plan)介護計画を策定したうえで(Do)ケアを実行し、(Check)実行した結果の改善余地を知る。(Action)そして、改善策となるケアを特定する。このような一連の流れが介護現場の中で機能するようになれば、我々もまだ道半ばではありますが、本質的な科学的介護の実践に近づけるのではないかと考えています。

 科学的介護という概念はまだ新しく、これからあらゆる施設で取り組まれ、そのノウハウが共有されていくものです。今後、この概念が発展していくことを期待しながら、今回取り上げさせていただいた科学的介護の実践に向けた取り組みも、一例として、各々の事業所の取り組みの参考にしていただけますと幸いです。 PDCA


※ この記事は月刊誌「WAM」2023年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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