第8回:ケアテック(介護ロボット)活用による利用者への効果
第8回目は、ケアテック(介護ロボット)を活用することの効果を、利用者への視点からご説明したいと思います。第7回では介護職員への負担軽減の視点からの活用についてご説明しましたが、利用者へよりよい介護サービスを提供するために活用することも重要です。今回は、社会福祉法人善光会(以下弊会)での事例を通して、@自立支援、A生活改善の視点でどのように活用しているかをご紹介します。
@ 自立支援の視点からの活用
介護保険法で定められている通り、介護サービスは、要介護者が有する能力に応じて自立した生活ができるように支援することが求められています。もちろん、厚生労働省と経済産業省による「ロボット技術の介護利用における重点分野」(以下重点分野)に該当する機器は、介護における利用として、自立支援の視点から活用できるように開発されています。ロボットによる介護というと、利用者個々人の状態を問わず、手取り足取りすべて支援してしまうようにイメージされることも少なからずありますが、それは全くの誤解です。使用する側も自立支援の視点から活用することで、個別の利用者に応じた自立支援につなげられます。
例えば、弊会では、重点分野の排泄支援機器である、排泄予測デバイス「DFree」(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社)を、自立支援の視点から活用しています。「DFree」は、膀胱のふくらみを超音波が計測することで、尿のたまり具合が把握できる機器です(図1)。下腹部の膀胱のちょうど上あたりの位置に装着することで「そろそろ」(トイレ誘導の目安)や、「出たかも」(排尿後のパッド交換の目安)のタイミングを、スマートデバイス(iPhone・iPad)のアプリケーションの通知を通して、知ることができる画期的な機器です(図2)。
弊会ではこの「DFree」の「そろそろ」通知を活用した自立支援に取り組んでいます。これまでは、尿意を訴えかけることができない方や、失禁が避けられない方は、やむを得ずオムツを使用されてしまっているケースが多いかと思います。こうしたケースにおいても、本来、トイレに座って排泄することができる方は、その方の有する能力に応じてトイレで排泄していただいたほうが望ましいでしょう。
弊会ではこのように、できるかぎり日中はオムツを使用せず、トイレに誘導する取り組みを行ってきました。「DFree」を活用すれば、膀胱に尿がたまってきたタイミングで職員が日中使用しているiPhone のアプリケーションに「そろそろ」通知が届くので、そのタイミングでトイレ誘導を実施することができます。寝たきりではない方で、トイレに座ることができる方の多くを対象として、オムツではなくトイレでの排泄が可能となりました。オムツは最終手段であるといわれることもあるように、要介護者がオムツの使用に頼ってしまうと、排泄機能自体のさらなる低下につながる可能性があります。「DFree」は機器の性質上、測定しにくい姿勢や体形などもありますが、「DFree」の活用によってトイレ排泄が実現できることは、まさにケアテックの活用で実現した自立支援といえます。
またこうした自立支援の視点からの活用は、排泄支援だけではありません。他にも、入浴支援分野におけるバスリフト(TOTO株式会社)は、大掛かりな工事がなくても浴槽に取り付けができる装置です。浴槽に取りつけたシートが電動で昇降するので、一人での立ち座りが難しい方の入浴が支援できます。他の機械浴とは異なり、完全に座ったまま・寝たままではなく、浴槽をまたぐ動作を利用者自身の力で行うことを支援する入浴介助となるので、自立支援の点からも活用しています。
A 生活改善の視点からの活用
次に、生活改善の視点における事例を紹介します。前回でもご紹介した眠りSCAN(パラマウントベッド株式会社)は、睡眠の状態や、心拍・呼吸といったバイタル値を測定できる見守りセンサーです。弊会ではとくにこの睡眠のグラフ表示である「睡眠日誌」を分析し、介護の視点から利用者の生活改善に取り組んでいます。
弊会でのよい事例をご紹介します。睡眠日誌における生活改善前(図3)と生活改善後(図4)のグラフをみていただくと、夜間の熟睡時間が増えていることがわかるでしょう。
これは弊会で介護職員が実際に取り組んだことにより改善した事例です。とくに、図3と図4にて枠で囲んでいる15時から18時の時間帯にご注目ください。この事例では、主に15時から18時の昼寝は、その後の就寝時間に近いため夜間の睡眠に影響すると考え、この時間での昼寝が少なくなるよう、日々の介護で利用者と一緒に取り組みました。その結果、睡眠効率を示す数値は約5割から8割程度に改善し、睡眠の質がよくなっていることがわかりました。このようによい睡眠がとれると生活にさまざまなよい影響を及ぼします。この事例では、利用者はこれまで以上に活発になり、日中の行動量が増え、食欲も増進していることが確認できています。このように、眠りSCANは、データに基づいて介護職員が生活改善を図り、さらにその結果を明確にとらえることが可能です。まさにケアテックを活用して利用者の生活改善を図ることが、よりよい介護サービスの提供に結びついているといえる事例でしょう。
そして、このようにデータを取得することができるケアテック(介護ロボット)は、今後さらに広がっていくことが期待されています。見守りセンサーは、転倒などのリスク情報に限らず、バイタル値やADL(日常生活動作)に関するデータ取得の視点からの開発も始まっていますし、移動支援機器等リハビリにも応用できる分野では、歩行等の運動に関するデータを取得できれば、エビデンスに基づいた機能訓練へと活用することも可能でしょう。データに基づいた介護を行うことで、利用者の生活改善や更なるQOLの向上につなげることは、まさにこれから必要になっていく視点といえます。
※ この記事は月刊誌「WAM」2023年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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