第9回:介護事業者におけるChat GPTの活用可能性
2023年に入り、対話型AI「Chat GPT」が世界中で注目を集めています。本稿では、介護事業者におけるChat GPTの活用可能性について、現在善光会で行っている取り組みも踏まえて解説します。
介護事業者におけるお勧めのChat GPT活用法(Chat GPTの回答)
読者の皆様がChat GPTについて特に気になっているところは、「実際どのくらい凄いのか」、「自分たちの職場ではどのように使えるか」だと思います。そこで、Chat GPTの有用性や可能性を理解していただくために、「介護事業者のお勧めのChat GPT活用方法」をChat GPTに尋ねてみました。以下の回答は原文のままです。なお、Chat GPTのバージョンは「GPT-4」です。
私がChat GPTに投げかけた質問(プロンプト)
介護事業者にお勧めのChat GPT活用方法を教えて下さい
Chat GPTからの回答 *原文ママ
介護事業者向けにお勧めのChat GPT活用方法をいくつかご紹介します。ただし、これらの提案は一般的なアイデアであり、実際に導入する際は、事業者の具体的なニーズや制約を考慮してください。
@ 介護スタッフのトレーニング:
Chat GPTを使って介護スタッフ向けの教育・トレーニング資料を作成したり、疑問に答えることができます。
A 言語サポート:
介護サービスを利用する高齢者や障害者のコミュニケーションをサポートし、言語障壁を軽減することができます。
B アポイントメント管理:
介護事業者のスケジュール管理やアポイントメントの設定、リマインダーの送信を自動化できます。
C 介護記録の作成:
介護スタッフが提供したサービスの詳細や利用者の状態を記録し、必要に応じて報告書を作成することができます。
D Q&Aチャットボット:
利用者や家族からのよくある質問に対応するチャットボットを設置し、介護事業者の負担を軽減することができます。
E メンタルサポート:
介護スタッフや利用者がストレスや不安を感じた際に、心のケアを提供するために活用することができます。
F リハビリプログラムのサポート:
Chat GPTを使って、利用者のリハビリプログラムに関する情報を提供し、進捗を追跡することができます。
G イベントや活動の企画:
介護施設で開催されるイベントや活動のアイデアを提案し、企画をサポートすることができます。
H フィードバック収集:
利用者や家族からのフィードバックを収集し、改善点やサービスの質を向上させるためのアイデアを提案することができます。
これらの活用方法を検討する際には、プライバシーや倫理的な問題にも注意してください。特に、介護業界では個人情報や機密情報が関与することが多いため、以下の点に留意することが重要です。
@ プライバシー保護:
Chat GPTを導入する際には、利用者やスタッフの個人情報が適切に保護されるようにすることが必要です。データの暗号化やアクセス制限の設定を行い、情報漏洩を防ぐ対策を講じてください。
A 倫理的配慮:
AI技術を使用する際には、誤った情報の提供や偏見が生じないように注意が必要です。定期的な監視と評価を行い、問題が発生した場合には速やかに対処してください。
これらの注意点を踏まえて、介護事業者向けにChat GPTを活用する方法を検討し、サービスの質や効率を向上させることができます。
いかがでしょうか? Chat GPTは、インターネットに公開されている膨大なデータから学習したうえで、前述のようにとても綺麗な日本語で回答してくれます。さらに、これらの回答に対して、例えば「@に関する実際の事例を教えてください」などと追加でプロンプト(AIに対する質問や命令)を投げかけると、その回答が返ってきます。この点から、とても優秀で大きなポテンシャルを秘めたAIであることがご理解いただけるのではないかと思います。
ただし、現時点のChat GPTの精度や特性、並びに介護現場の業務内容を考慮すると、Chat GPTが回答したお勧めの活用方法9点は、まだ効果が限定的な部分も多い状況です。
善光会におけるChat GPT活用の取り組み
弊会では、Chat GPTを有効活用するために、2023年3月に「Chat GPT活用ワーキンググループ(委員会)」を立ち上げました。メンバーには、特養や居宅介護支援事業所などの各介護サービスの管理職、経理や法務などのバックオフィス担当者、情報システム担当者、弊会のシンクタンク部門であるサンタフェ総合研究室の研究員で構成されています。
ワーキンググループメンバーがさまざまな試行錯誤を行う中で、現時点でとくに有益だと実感している活用方法は、以下3点です。
@ 文章の生成・校正:
Chat GPTへ丁寧に説明して作成指示すると、ご家族様向けや他事業所様向けの案内文書、SNSの投稿文などは、ほとんど修正せずに使えるクオリティの文章が生成できます。また、施設のご利用者向けの献立表も季節の食材を取り入れながらすぐに活用できるレベルの献立表を提案してくれます。さらに、Chat GPTに文章の校正を依頼すると、急いで書いた拙い長文の介護関連文書(例:事故に関連する介護記録やケアプランなど)は、とても読みやすく且つ論理的な文章に変換してくれます。弊会では、これらの活用方法で、生産性の向上効果を実感してきています。ただし、これらの活用方法を取り入れる際は、個人情報を入力しないよう注意する必要があります。
A 職員の教育・訓練:
Chat GPTへ丁寧に指示すると、新人研修用の確認テスト問題やBCPの訓練プログラム案も具体的に提案してくれます。また介護福祉士試験の過去問題なども出題してくれて、さらに回答に対して正誤や解説などもしてくれます。弊会では、これらの活用方法で、一定の教育・訓練の効率化効果を実感しています。
B情報収集:
Chat PDFを活用すると、厚労省のHPに公開されている法改正や制度に関する各種の膨大なPDFファイルをChatボット化して、こちらが文章で質問すると、膨大なPDFファイルの中から必要な情報を抜き出して回答してくれるようになります(図)。また補助金・助成金の一次情報収集にも利用できます。弊会では、これらの活用方法で、必要となる情報を以前より効率よく調査できるようになってきています。
以上のように、弊会ではまだまだ試行錯誤中ではありますが、Chat GPTの便益を次第に享受し始めています。そのため、多くの事業所にお勧めしたいと考えています。ただし、Chat GPTは、回答の元となっている教師データ(AIに学習させたビッグデータ)が「2021年9月まで」であるため、最新情報が反映されていないという特徴があったり、誤った情報が紛れることも少なくないため、活用する際は、それらの点を留意して上手に活用することをお勧めします。
※ この記事は月刊誌「WAM」2023年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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