第1回:ポイントは改定テーマに沿った診療を行えるか
2024(令和6)年度改定は、近年まれにみる大幅な改定ではなかったでしょうか。一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の厳格化と急性期一般入院料1における平均在院日数の短縮は毎回のことですが、ベースアップ評価料、地域包括医療病棟入院料の新設やリハビリ・栄養・口腔関連の加算新設など、多岐にわたる改定となりました。
本連載では医療機関向けに、今回の改定を解説していきます。初回では、厚生労働省から医療機関へのメッセージを読み解き、改定の全体像をみていきます。
今次改定の特徴
@ メッセージ性の強い改定内容
今回の改定では、介護・障害者施設との連携やリハビリテーション、栄養や口腔に関する要件や加算の新設が多数含まれています。
2024(令和6)年度改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会でスタートする前に、介護給付費分科会との意見交換会が2023年3〜5月に開催されました。その意見交換会でのテーマを、一部抜粋してご紹介します。
1. 地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携
2. リハビリテーション・口腔・栄養
3. 要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療
4. 高齢者施設・障害者施設等における医療
5. 認知症
6. 人生の最終段階における医療・介護 等
意見交換会のテーマをみると、2024(令和6)年度診療報酬改定の特徴を掴むことができるでしょう。このテーマに沿った医療提供を行えるか−それが医業経営に直結するといっても過言ではありません。
A 職員の処遇改善
もう一つの改定の特徴として、処遇改善に関する初再診料・入院料の引き上げと、ベースアップ評価料の新設があげられます。2023年12月20日に決定された改定率では、診療報酬+0.88%のうち、+0.61%が看護職員等医療従事者のベースアップ実施のための特例的な対応とされました。改定率の大半が、医療従事者に対するベースアップに充てられることとなります。
ベースアップ評価料は、対象職種のベースアップを行うことが施設基準のひとつとなっています。
ベースアップとは基本給や毎月支払われる手当の等級表、賃金テーブルの昇給であり、賞与のアップや定期昇給では要件を満たすことにはなりません。まず、ベースアップを行ったうえでの評価料の届出となることに注意が必要です。
評価料算定による財源等を元にベースアップを行う医療機関との賃金格差、さらには評価料要件である対象職種のベースアップによって、院内での賃金格差が生じる可能性もあります。評価料算定は、ベースアップによる対象職種人材の確保に影響する反面、院内の調整が必要となるかもしれません。
一般病棟用の重症度、医療・看護必要度
B 急性期一般入院料1への影響
今回の重症度、医療・看護必要度の改定内容は、急性期一般入院料1を算定する中小病院にとって、大変厳しいものとなっています。
急性期一般入院料1は、今回から2パターンの該当患者割合が求められることとなりました。それぞれのパターンでは、いずれもB項目は評価対象外とされました。
実際に中小病院のなかには、B項目の評価対象外化で、急性期一般入院料1の維持が厳しいとの声もあります。じわりじわりと、中小病院を中心とした急性期一般入院料1への締め付けが強まっています。
表1
地域包括医療病棟入院料とはどのような入院料か
急性期一般入院料1を維持できなくなった場合に、次に候補となる入院料として、新設された地域包括医療病棟入院料(3050点/1日あたり、90日限度)があげられます。主な施設基準は、▽看護配置10対1以上、▽自院一般病棟からの転棟5%未満、▽平均在院日数21日以内、▽在宅復帰率8割以上、▽運動器リハビリテーション料等を届け出ている、▽救急搬送患者・救急患者連携搬送料(新設)算定患者等が15%以上、などです。これらの施設基準から、急性期一般入院料1よりも緩く、地域包括ケア病棟よりも少し厳しいランクの入院料のように感じます。
しかし、自院一般病棟からの転棟患者割合が制限されていることから、自院一般病棟からの転棟で稼働率を上げる、といった使い方はできません。救急搬送等患者割合が求められる点からも、「下り搬送」を含めた病棟への直接入棟を評価しているのです。実際に、要件の一つである救急患者連携搬送料の算定とは、「下り搬送」を行った患者を指します。
また、新設の協力対象施設入所者入院加算(協力医療機関が介護施設等の入所者を入院させた場合に算定)が別途算定できることから、介護施設や障害者施設等からの患者受け入れも期待されます。
2023年に行われた中央社会保険医療協議会において、急性期一般入院料1では、重症度、医療・看護必要度の該当患者割合において、「救急搬送後の入院」は、入院初期では高齢者ほど割合が高くなっているというデータが示されました。
厚生労働省は、急性期一般入院基本料を算定するような病棟ではなく、地域包括医療病棟入院料などで高齢者の入院を受け入れ、リハビリを行い在宅に帰すことを求めているのです。これは、急性期一般入院料1を維持できなくなった中小病院に対する、厚生労働省から病床転換を促すメッセージではないでしょうか。
入院料通則に「意思決定支援」、「身体的拘束最小化」が追加
こちらの内容も、介護給付費分科会との意見交換会のテーマに沿った改定内容です。従来の5基準である入院診療計画、院内感染防止対策、医療安全管理体制、褥瘡対策、栄養管理体制に加え、意思決定支援と身体的拘束最小化が追加され7基準とされました。2012年度診療報酬改定以来の5基準への追加です。
身体的拘束最小化については療養病棟等ではすでに要件化されていますが、今回改定では、基準を満たせない場合に入院料が減算(1日につき40点減算)される点が特徴です。
医療DX 〜マイナ保険証普及へさらなる評価新設
医療DXに関する改定も、今回改定の大きな特徴の一つです。改定実施時期が6月に後ろ倒しとなったのも、電子カルテへ改定内容を反映させる時間的な余裕を確保することが理由でした。
この間、国は、オンライン資格確認等をはじめとする医療DXの推進施策を進めてきました。今回の改定では、こうした施策をさらに推進するための評価が新設されました。今回新設された医療DX推進体制整備加算は、電子処方箋の発行体制やマイナンバーカードの健康保険証(マイナ保険証)利用の実績等が施設基準となっています。さらに、医療情報・システム基盤整備体制充実加算は、点数は引き下げられましたが、医療情報取得加算として継続されることとなりました。
しかし、こうした点数は、マイナ保険証への統一後は基本診療料に内包化されていくでしょう。届出・算定する際は、恒常的な収入源ではないと意識する必要がありそうです。
今回は、診療報酬改定のテーマを中心に改定内容をご紹介しました。自院の方向性を改定のテーマにいかに近づけられるかが、増収のポイントとなってくるでしょう。次回以降は、詳細に改定内容を深掘りしていきます。
※ この記事は月刊誌「WAM」2024年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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