第6回:ベースアップ評価料 ―柔軟な運用法と留意点
2024年度改定で最も注目度が高く、病院経営者や事務方の頭を悩ませたのが、ベースアップ評価料ではないでしょうか。本稿では、ベースアップ評価料の点数のおさらいとともに、配分事例等について弊社で把握している事例から、柔軟な運用方法と留意点について解説します。
ベースアップ評価料とは
ベースアップ評価料は、看護職員、病院薬剤師等対象職種の賃上げ実施のための点数として2024年度改定で新設されました。
ベースアップ評価料は、病院の場合は図1の通り2段階(場合によっては外来・在宅ベースアップ評価料(T)のみ)で届出・算定する点数となっています。外来・在宅ベースアップ評価料(T)は初・再診を行った場合に算定することとなるため、外来患者数が多いほど評価料による収入は増加します。
入院ベースアップ評価料は、外来・在宅ベースアップ評価料(T)による算定見込み額が一定以下(対象職種の給与総額の2.3%未満)である場合に届出でき、計算式(図2)によって165区分のいずれかを、入院料算定患者について算定します。7月1日時点で入院ベースアップ評価料届出医療機関数は6,229施設(各厚生局届出受理名簿より)となっており、全国8,084施設(閉鎖施設除く)のうち77%が届け出ています。
算定においては、対象職種の賃金改善(ベア等)を実施し、ベースアップ評価料で得られた収入はすべてベア等に充てることが施設基準で求められています。
病院の事例 ―柔軟に運用していくために
@「手当支給」と将来見通しへの不安
では、実際に医療機関はどのようにベースアップ評価料を用いてベア等を行っているのでしょうか。
多くの場合、基本給の引き上げではなく「手当」として支給しています。「ベースアップ手当」などとし、給与規定に「診療報酬におけるベースアップ評価料が廃止された場合は、減額または廃止する」と記載している病院もあります(表1)。ベースアップ評価料という診療報酬は時限的で、将来的に廃止となった場合に備えている、ということです。病院に自力でベア等を行う体力がなく、ベースアップ評価料が廃止された場合は、ベア等を廃止せざるを得ない状況であることがわかります。
基本給の引き上げを行わない理由としては、先述の通り手当支給の方が減額・廃止が簡易であること、また支給総額の管理が複雑であるといったことが大きな理由となります。基本給を引き上げるということは、賞与の引き上げにもつながります。賞与も含めたベア等に充てる財源把握が煩雑となるため、基本給の引き上げではなく手当支給と判断した病院が多くあるのです。
A患者数の増減によるベア評価料収益変動の対策
ベースアップ評価料による収入は、初・再診料や入院料の算定回数によって毎月変動します。また、患者数が届出時から変動(1割以内の変動を除く)した場合は毎年3、6、9、12月に届出区分の変更を行う必要があるため、ここでもベースアップ評価料による収益は変動します。
施設基準では、ベースアップ評価料の収入はすべてベア等に充てることとされています。そのため、当初の見込みよりもベースアップ評価料による収入が増減した場合や入退職による職員の増減があった場合には、病院の持ち出しが発生してしまう可能性もしくは、配分できなかった額が余り、施設基準を満たせなくなってしまう可能性もあります。
そうした場合に備え、ベースアップ評価料によるベア等の金額を、一律ではなく幅を持たせて設定している医療機関もあります。
表1は、賃金規定の見直し例です。例では、「ベースアップ評価手当」の名目で幅を持たせた金額を規定し、ベア等を実施しています。ベースアップ評価料の収入が増収または減収となった場合に、柔軟に対応できるようにしているのです。
見落としがちな点
@ 9月は新設後初の再算出・区分変更月
9月は、入院ベースアップ評価料の再算出、区分変更の届出月です。患者数や再算出による区分の確認を行った上で、届出時の見込みより1割を超える患者数の増減があった場合、算定区分の変更届出を行う必要があります。入院ベースアップ評価料届出医療機関は、区分判定に用いた計算式(図2)で再度算出し、区分変更が必要な場合は届け出直します。
なお、年4回行うとされている再算出は表2の通り対象となる期間が定められています。未届の病院も表2のとおり届出・算定開始の月に定めはありますが、9月以降も届出の機会はありますので、届出を悩んでいる病院はご検討下さい。
A 給与規程の見直しは
ベースアップ評価料の届出には、賃金改善計画書を作成し添付する必要があります。しかし、あくまで計画はベースアップ評価料の届出に必要なものであって、給与規程の見直しは別途、必要です。
9月の区分再確認の時には、図2の計算式による再確認だけでなく、給与規程の改定が済んでいることの確認や表2のような支給方法への見直しなども併せて行うことをおすすめします。特にベア等の額に幅を持たせる方法は、職員の処遇改善と患者数の増減に振り回されない安定的な経営維持につながります。検討の余地があるのではないでしょうか。
半年間、本連載では2024年度診療報酬改定に関して特徴的な点数をピックアップし、経営的な視点で解説してきました。病院経営に携わる方々の一助になれば幸いです。
※ この記事は月刊誌「WAM」2024年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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