2024(令和6)年度診療報酬改定では医療機能に応じた医療提供体制の新たな評価が複数新設されており、前回の地域包括医療病棟入院料もその一つでした。機能分化による効果的かつ効率的な医療の提供は質の高い医療の推進だけでなく、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保にもつなげる狙いがあります。
医療機能分化の発揮は医師や看護師だけで担えるものではなく、さまざまな職種が協働して取り組む必要があります。今回は機能分化のうち、急性期における多職種協働が求められ、収入効果の期待される診療報酬項目を2つ取り上げて解説します。
リハビリテーション・栄養管理の充実化が焦点に
今次改定における4つの基本的視点と具体的方向性の1つである、「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」では、リハビリテーション・栄養・口腔管理の連携・推進を図る観点として、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(120点/日※地域包括医療病棟における加算では80点/日)が新設されています。
《急性期医療の段階から在宅復帰を意識》
リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算はより早期から切れ目のないリハビリテーション(離床)・栄養・口腔の取り組みや多職種による評価と計画がなされる体制を評価した項目であり、急性期医療におけるADL(日常生活動作)低下の防止を目的としています。急性期医療は重症度や安静が求められることを背景に、入院患者のADLが入院当初と比較して低下してしまう、もしくは効果的な改善が見受けられないといった事象が起こっています。しかし、それでは離床や自立度回復までの時間がかかり、結果的に長期入院による病床逼迫や在宅復帰率の低下を招いてしまうことが懸念されていました。新設のリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は多職種協働での取り組みにより、主疾患治療と並行して早期離床や在宅復帰を目指した評価であり、チーム医療の真価が問われることになるでしょう。
《多職種協働のADL向上アプローチ》
施設基準要件にも急性期医療における多職種協働が求められています。多職種に係る施設基準を一部抜粋すると、?専従の常勤理学療法士、常勤作業療法士又は常勤言語聴覚士が2名以上配置されている。なお、うち1名は専任の従事者でも差し支えない、?当該病棟に専任の常勤の管理栄養士が1名以上配置されていること、?入退院支援加算1の届出を行っていることなどです。抜粋した施設基準では少なくとも理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士などの配置が求められています。ADL改善はリハビリテーションによるアプローチが主である印象を受けますが、当該加算によって栄養管理や口腔管理の重要性も焦点となっています。
《迅速かつ定期的な評価・管理の仕組みが求められる》
続いて、算定要件についてです。施設基準では人員的な体制整備があげられていましたが、その体制を踏まえ取り組まなければならない事項が算定要件に表れています。届出を行う病棟において入院した患者に対して、原則入棟後48時間以内にADL・栄養状態・口腔状態についての評価を行い、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理に係る計画を作成する必要があります。また、リスクに応じて定期的な再評価やカンファレンスの実施が求められており、計画立案をすればよいというだけではありません。
一見、人員配置やカンファレンス開催などの体制整備が必要なハードルの高い要件に見えますが、急性期医療においてはすでに実施されている体制の延長とも捉えられるのではないでしょうか。急性期医療において、リハビリテーションによる術前や入院当初からの早期アプローチはすでに多くの医療機関で取り組まれており、入院時のアセスメント結果次第では栄養管理介入などがなされているはずです。当該加算ではその体制に付加された「原則48時間以内」、「入棟した全患者」という時間的・対象的条件を満たす必要がありますが、120点/日を14日間算定できるという評価を活かして体制整備に取り組むメリットは大いにあるのではないでしょうか。
リハビリテーションの早期介入を新たに評価
次に急性期医療において、重症者に対する早期からの急性期リハビリテーションの提供推進の観点から新設された、急性期リハビリテーション加算(50点/14日目まで)について解説します。当該加算は疾患別リハビリテーション料の加算であり、入院中の重症患者を対象に、病態に応じた早期からのリハビリテーション実施体制を評価する診療報酬です。施設基準は「当該保険医療機関内にリハビリテーション科の常勤医師が配置されていること」とあるように、疾患別リハビリテーション料の届出がなされている医療機関であれば人員的基準のみを満たせば届出ができる加算となっています。
では、この加算の指す「重症患者」とはどのような状態の患者を指すのでしょうか。算定要件上の対象患者は次の通りとされています。
(ア)ADLの評価であるBIが10点以下のもの。
(イ)認知症高齢者の日常生活自立度がランクM以上に該当するもの。
(ウ)次に示す処置等が実施されているもの。
動脈圧測定(動脈ライン)、シリンジポンプの管理、中心静脈圧測定(中心静脈ラ
イン)、人工呼吸器の管理、輸血や血液製剤の管理、特殊な治療法等(CHDF、
IABP、PCPS、補助人工心臓、ICP測定、ECMO)
(エ)特定感染症入院医療管理加算の対象となる感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者及び当該感染症を疑う患者
対象患者の要件をみる限り、BI10以下の患者とは日常生活動作でほぼ自立が難しい患者であることが想定されます。場合によっては部分介助患者でも該当せず、完全に全介助状態の患者であるこが考えられます。また、対象処置においても中心静脈ラインや心肺機能の補助状態にあるなど、高度急性期医療に準ずるような状態を対象としていることも見受けられます。
施設基準要件とは対照的に、算定対象患者の条件はかなり制限されている印象がありますが、急性期一般入院料1を届け出る医療機関やそれに類似する急性期医療を担う医療機関においては、日常的に当該加算における条件に当てはまる重症患者が入院していることが想定されます。こうした急性期医療機関では早期の退院(または転院)などで病床稼働率を上げる必要がありますが、その取り組みの一環として早期からのリハビリテーションがなされていると思われます。
また、当該加算は早期リハ加算や初期加算と併算定が認められており、入院から14日目まではあわせて120点/単位が算定できる報酬体系になっています。従前からなされている取り組みに新たな診療報酬という評価が付いたと考えると、増収効果も同時に担えるメリットの大きい加算ではないでしょうか。
多職種協働で質の高い医療提供と安定した収入基盤を目指す
前回の2022(令和4)年度改定までにおいても、多職種協働・連携の観点で評価されている診療報酬項目は多数ありました。そして今次改定では医療機能を踏まえ、各職種がより専門性を高めた院内の体制や仕組みに評価の焦点が向けられているといえます。しかしながら、専門性を高めるには専従・専任や研修・受講実績といった人材・人員に係る要件が規定されています。このような診療報酬改定の傾向も踏まえつつ、自院の診療機能を人員的要件・医療技術的要件・施設設備的要件に細分化して捉えることで、病院経営に好影響を与える施策を考えていく必要があるのではないでしょうか。
※ この記事は月刊誌「WAM」2024年7月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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