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人材確保難時代の経営戦略について

 全6回に渡って、「人材」をテーマにお届けします。


<執筆>
 社会福祉法人伸こう福祉会 理事長 足立聖子 氏
米国ウィスコンシン大学社会学老年学専攻B.A卒業後、製薬会社勤務を経て、2000年社会福祉法人伸こう福祉会(神奈川県)に入職。「特別養護老人ホーム クロスハート栄・横浜」施設長、「横浜市屏風ヶ浦地域ケアプラザ」所長等を経て、2010 年同法人理事長に就任。2014 年優れた社会企業家を発掘・支援する「シュワブ財団」による「社会企業家2014」に同法人創業者とともに選出。


第5回:外国籍職員の採用と育成

外国人が増えた理由

 最近、街で多くの外国人旅行者や仕事で来日している滞在者を見かけますが、彼らの多くは日本を「とても快適に過ごせる国」だと言います。治安がよいし、街が清潔であり、公共交通機関が便利である。また、食事が美味しくて安いから…と。一度来日すると大の日本ファンになり、その後も二度、三度と訪れます。そして日本好きが高じると、日本で暮らしたい…という思いを持つ人もいます。旅行者や就労者、そして留学生と、今、街で多くの外国人を見かけるようになったのは、世界中に「日本びいき」の人が増えたからなのでしょう。かつて米国や英国が「憧れの地」で、人々が移り住んだことで移民の国となったように、日本も少しずつ多民族の国になりつつあるのかもしれません。

介護職としての外国人

 実際、日本における外国人居住者の数は年々増加しています。これから日本は一層の少子高齢化時代を迎え、2025年以降には団塊の世代が75歳以上となり、介護者の数は約38万人不足するといわれています。そこで政府は数年前から外国人に介護をやってもらうための仕組みづくりを進めてきました。
 まず2008年からインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国を対象に順次スタートしたのがEPA外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れです。4年制大学卒や看護師資格所有者など、一定の条件を満たす者が、日本の介護施設で就労・研修をしながら介護福祉士の資格の取得を目指します。資格取得後は継続して働けますが、もし資格が取得できなかった場合は、帰国します。この制度では4000人以上の外国人が日本の介護現場に入りましたが、資格の取得ができたのは約700人に留まり、ほとんどの人は帰国を余儀なくされました。
 2017年からは、外国人技能実習生制度に新たに「介護」が加わり、外国人が技能実習生として介護施設で就労することができるようになりました。技能実習生制度自体は1993年から存在しており、日本から途上国に対する技術移転が目的です。つまり途上国から来た人々が、自国では学ぶことが難しい技術を日本で学び、それを自国に持ち帰って役立たせるというのが本来の制度のあり方です。法律にも「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(技能実習法※第3条第2項)と明記されていますが、現実的には「実習というより、人手不足を補う助っ人」としての役割を技能実習生に期待している施設もあります。「送り出し機関」や「監理団体」などが間に入る必要があるため採用、コストが非常に高くなり、受け入れを躊躇している福祉経営者も少なくないと聞きます。そのためか技能実習生の受け入れはまだまだ途上であるという印象です。それ以外にも、特定技能や在留資格「介護」など、外国人を介護施設で受け入れる方法がいくつかあります。
 受け入れ側としては「なぜ」、「どのくらいの期間」、「どんな人」を受け入れたいかを明確にしたうえで、計画的に受け入れを行うことが重要です。とくに技能実習生は、「実習生」であるということを忘れずに、単なる業務の担い手ではなく、自法人が責任を持って技術継承を行っていけるのかも考えてください。監理団体や送り出し機関を選ぶ際は、実習生の方が帰国した後もきちんとフォローをしてくれるのか、一人ひとりの実習生の人権に配慮した対応をしているのか、をしっかり見極めたうえで選んでください。
 「〇〇国の人は、素朴です」、「若い人を確保しています」など、適性を考えずに交渉をしてくる組織の口車に乗せられないよう、福祉経営者として慎重に見極めてください。また在留資格「介護」の方や特定技能の方については、真剣に日本で介護の職につきたいと願い、そのために努力を重ねてきた優秀な人ですから、外国人という色眼鏡でみることなく、日本人と同等のキャリアパスを用意することが望ましいと考えます。
 ※外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習の保護に関する法律

外国人とともに働く上での配慮

 私どもの法人では50人ほどの外国籍職員が就労していますが(図)、日本人の配偶者、永住者、日系人や中国残留孤児の家族など、全員が期間の定めなく日本での在留資格をもつ方々です。外国籍職員を採用したきっかけは、地元のカトリック教会からの依頼で、仕事がなくて困っていたベトナム人の方を採用したのが最初です。介護施設での仕事は生活の延長線上にあり、身体介護に限らず掃除や洗濯、食事の準備などを含め多岐にわたるので、言葉が不自由な方でも、自然に日常会話を覚えていきました。
 日本語が堪能ではない外国籍職員の場合、一生懸命身振り手振りでコミュニケーションを図りますし、感情表現が豊かな方が多いので、その方がいるだけで施設の雰囲気が明るくなると、利用者やご家族からは好評をいただいています。これまで20年間、「外国人に世話を受けたくない」という苦情は1件も受けたことはありません。
 ただし、外国籍職員は生活上で必要な手続きや連絡などに不慣れであるため、私生活でもさまざまな問題を起こしてしまう場合もあります。そこで、法人内に特別なサポートチームを設置し、引っ越しや公共料金の支払い、各種届出などの手助けをしています。また施設の方針書や重要な書類(例えば健康診断や年末調整など)は、日本語、英語、スペイン語、中国語に訳して提供します。
 外国籍職員の場合は、職場が唯一の社会との繋がりである場合が多いため、生活全般について細やかにサポートすることで、安心して良い仕事をしてくれる場合が多いです。法人の規模によっては、外国人サポートの専門の部門を立ち上げることは難しいと思いますので、「お世話係」としての担当者を1人つけるだけでもずいぶん違います。この場合、管理職よりはもっと職員の身近にいる担当者が望ましいと私は考えます。

外国籍職員の育成とキャリアパス

 外国人が日本人と大きく違うところが1つあります。それは、日本人の多くが常に「組織のなかの自分」という考え方でキャリアを捉えるのに対し、外国人の多くは「自分」が中心であり、組織については二の次だということが多いことです。自分が組織のなかでどう評価されるかより、自らの人生に組織がどのようなメリットをもたらしてくれるかを考える方が多いのです。仮に法人が長期的視点でその人を育成し、いつかは管理職に登用しようとしても、職員側では自身のキャリアについて明確な計画をもっていることが多く、「それは自分のプランとは違う」と断る人もいます。
 外国籍職員の育成に関して重要なことは、組織の一方的な目線でキャリアプランをつくるのではなく、本人にはっきりと「あと何年うちで働く?」と聞き、その人の力を、現在もっとも活かせる形で使うことです。自国を飛び出して世界で活躍する人たち特有の思考だと、最近は理解できるようになりましたが、期待をかけていた職員が辞職するたびに、最初の頃は何か自分に過失があったのではないかと悩んだものです。
 外国籍職員の雇用についてはまだ躊躇し、不安を感じる経営者の方も多いと思います。しかし、これからの日本の労働人口を鑑みると外国籍労働者とともに働くことは、介護業界の自然な流れです。
 ヒューマンサービスのプロである私たち介護職ですから、多様な価値観を理解し各々がベストな力を出せる「場」づくりのために、ともに力を尽くしましょう!

※ この記事は月刊誌「WAM」2020年2月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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