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人材確保難時代の経営戦略について

 全6回に渡って、「人材」をテーマにお届けします。


<執筆>
 社会福祉法人伸こう福祉会 理事長 足立聖子 氏
米国ウィスコンシン大学社会学老年学専攻B.A卒業後、製薬会社勤務を経て、2000年社会福祉法人伸こう福祉会(神奈川県)に入職。「特別養護老人ホーム クロスハート栄・横浜」施設長、「横浜市屏風ヶ浦地域ケアプラザ」所長等を経て、2010 年同法人理事長に就任。2014 年優れた社会企業家を発掘・支援する「シュワブ財団」による「社会企業家2014」に同法人創業者とともに選出。


第6回:未来にむけて

未来の日本

 これまで6回にわたって、みなさまとお話ししてきましたが、今回でいよいよ最後となりました。そこで少し視点を変えて「30年先を見据えた人材戦略」についてお伝えしたいと思います。表は、2010年から2060年までの日本の人口推計です。この表を見ていただくとおわかりの如く、2010年から2020年の間はさほど人口減は進みません。しかし、2020年を境に一気に総人口は右肩下がりになり、ついに2050年には人口は1億人を下回ります。この表はあくまでも推計ではありますが、現在の少子高齢化の進み具合から察するに、かなり正確な値なのではないかと考えます。注目すべきは人口の構成比です。60歳以上の割合は年々増加するのに対して、15歳から59歳のいわゆる「労働人口」といわれる人たちの割合は減少していきます。つまり、介護される側はどんどん増えるのに、介護する側の人数が増えることはないのです。

介護は社会インフラとなる?

 2060年には実に人口の4割近くが60歳以上になります。今、この文章を読んでくださっている皆様の多くも、その頃は高齢者になっているのではないでしょうか?
 そんな時代には、介護は重要な社会インフラのひとつになるのではないかと私は思います。バリアフリーやユニバーサルデザインは当たり前のこととなり、きっと今よりもずっと高齢者にとって住みやすい世の中になっていることでしょう。そして多くの民間企業が介護の周辺産業に存在することでしょう。そんな時代において、我々社会福祉法人が果たすべき役割とは何でしょうか?
 私自身は「連携」と「教育」が福祉経営のキーワードとなるかと思います。この先は国の財源も非常にシビアな状況になりますので、これまでのように国からの補助を期待することは難しくなります。豊富な内部留保を有する法人はよいでしょうが、そうでない法人は経営が苦しくなることでしょう。そんな時代を法人が生き残るための策は「他組織との連携」です。すでに取り組んでおられる法人もあると聞きますが、社会福祉法人同士の本部機能の共有等を含める連携、そして民間企業といかに連携を図っていくかも生き残りの鍵となってくるのではないでしょうか。
 社会福祉法人が持っている財産で民間にないものは福祉のノウハウです。高齢者の「生活上の」さまざまなデータを企業に提供することで新しいサービスや商品が生まれ、それが介護力の向上につながるというような、ウィンウィンの関係が生まれれば理想だと思います。また、介護が特別なものではなく、それこそ自然に子供からお年寄りまで、街全体で要介護者のサポートに取り組めるようになれば、それもまた介護業界の労働力不足にとっては助けとなります。そのために幼少時から介護に慣れ親しんでもらい、だれもが介護を身近に感じられるような市民への「教育」の提供も社会福祉法人の果たすべき重要な役割となることでしょう。

めざすべきは「生産性の向上」

 この連載が始まった頃に一度お話ししたことですが、私たち福祉経営者は人材難を解決すべく、介護士の確保や定着に向けた努力もしなくてはなりません。これからの人口推計を見る限り、「人を集める」ことは今後ますます困難になってくるようです。そうなると必然的にこれまでの「仕事のやり方」の見直しが必要となってきます。
 介護保険が始まってからの20年間で介護業界には民間の参入も進み、今では世界でも類のない充実した仕組みが構築されました。しかし、これまでの20年間は団塊の世代も現役でしたし、人材ということでいえば日本の労働市場は非常に充実していた時期でした。「手厚い介護」という言葉が代表するように、人手をかけるのがよい介護であると言われ、民間企業の中には1対1の介護を売りにしている施設もありました。しかしここ2〜3年、私の法人の介護施設の職員たちを含む多くの施設の介護職員は「うちの施設は人手不足だ」と嘆いています。
 それは当然のことです。人手が潤沢であった10年ほど前の仕事のやり方をそのまま継続して行っているからです。これも当然のことですが、この10年間で利用者の要介護状態は進んでおり、より多くの手間がかかるようになっています。スタッフ自身も10年分の年齢を重ねていますから、身体も疲れやすくなっています。しかし、職員の人数自体は増やすことはできません。なぜなら報酬改定によって、施設経営は以前より厳しくなっているからです。
 ですから、ここで経営者ができることは2つです。ひとつはこれまでの業務のやり方の全面的な見直しです。不要な業務をやらない(重複する記録や誰も参加しない行事などを、いっそのことやめてしまってはいかがでしょうか?)。
 ボランティアや家族、場合によっては民間企業に一部の業務を助けてもらうのもよいと思います。給食や清掃はすでに外部に委託されている法人が多いと思いますが、それ以外に事務や運転、イベントの運営、外出や通院の付き添いなど、介護士が必ずしもやらなくてよい仕事を外部委託するという手もあります。
 そしてもうひとつは、生産性の向上のためのIT導入です。私自身、これからは、資金は介護士の育成と処遇の向上に投じて、なるべく間接経費をスリムにしていくことが福祉経営に必要なことだと思っています。そのために、経営者が投資すべきなのは、施設のオペレーションシステムだと思います。
 機械ができることは機械に任せ、人にしかできないことに特化することが、これから世の中全体の流れになっていきます。そのために福祉経営者は頭を悩ませ、何を捨て、何に投資するか今、決断しなくてはならないのです。

おわりに

 みなさまの中には「あと30年後の未来のことなど、今から考えている余裕はない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし私が弊法人の理事長職に就任した時、前任者から教えられたことは「経営とは組織の永続である」ということでした。お客様に喜んでいただく仕事をし、しっかりと利益を出し、次の世代に組織をつなげていくことこそが経営であり、それは一般企業も社会福祉法人も変わらないとのこと。
 ですから、組織の永続のために今からやれることを考えることは、最も重要な経営者の仕事なのです。私たちの今日の決断が、未来の法人の姿を決定づけます。人が人の命と生活を支えるという、とびきり素晴らしい、この福祉という職業を選び、そのなかでも法人経営という困難な挑戦に日々向きあわれている皆様がお忙しい合間にこの連載に目を通してくださったことに心より感謝いたします。
 介護は、日本で唯一これから50年間、継続して市場が拡大していく業界です。未来の自分のために、そして次世代のために、これからもさまざまな形で皆様と福祉経営に関する情報の交換をしつつ、工夫を重ねて、一緒に日本の明るい未来を創っていければ嬉しい限りです!

※ この記事は月刊誌「WAM」2020年3月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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