第1回:パートナーシップのある組織づくりが求められるワケ
今回の福祉医療経営情報では、「パートナーシップ」という切り口で、読者の皆様が人づくり&組織づくりについて”観点“を増やし、経営や組織マネジメントにパートナーシップを編み込み、最善な結果を手に入れていただくことを意図しています。
では、本題に入る前に、次のチェックリストをご覧ください。ご自身の組織に当てはまることがいくつあるでしょうか。
・言いたいことがあっても本人に言わない人がいる
・本人に言う時には、回りくどい言い方になりがちである
・何度も同じようなミスをする職員の指導に頭を抱えている
・相手にフィードバックをする時に、あれこれ気を使う
・正直な気持ちを話せる相手や機会がない
・職員がメンタル不全に陥りそうなトラブルの話を小耳にはさむ
・仕事を一人で抱え込む管理職がいる
・会議で発言せず、終わってから不平不満を述べる職員がいる
・職員の自発性がみられず、何をやりがいに働いているのかがわかりにくい
・3年後どころか1年後の組織展望も見えない
いくつ該当しましたか? 多様な人が集まる組織では、パートナーシップを意識しない限り、パートナーシップに欠けるトピックは起きます。
これからは、読者の皆さんには、組織をガタつかせるトピックを耳にするたびに、「パートナーシップが欠けていることから起きている可能性があるのでは?」と、ひとつの可能性として検証することをオススメします。
パートナーシップとは
ここまで読み進めるなかで、皆さんはパートナーシップという言葉を、どんな日本語に置き換えながら読んでいたでしょうか?
「協力(関係)」、「信頼(関係)」、「対等さ」、「誠実さ」、「助けあい」、「連携」、「相互理解」、「仲間意識」といった日本語に置き換えて読まれた方もいらっしゃるでしょう。パートナーシップは、いずれの質感も含み得る言葉として、一般的には使われています。本連載では「パートナーとしてのあり方」を総称する言葉としてパートナーシップという言葉を使います。
AIのテクノロジーが進化しても、代替できない分野が「コミュニケーション」と「イノベーション」の分野だといわれています。介護の仕事は、どちらの要素も含んでいるため、AIの技術がいくら進歩しても、完全に代替されない職業(分野)のひとつだと言われています。
「人のLife(生命・生活・人生)」を支える介護事業の営みは、人と人が関わりあうことで成立するものです。そのため、ありとあらゆる関わりのなかに、パートナーシップが求められます。
・経営者と職員および職員の家族
・管理職・リーダーと職員
・新入職員と先輩職員
・職員と利用者及び利用者の家族
・利用の問い合わせをしてくる人と受付応対者
・施設・事業所と近隣住民
・施設・事業所の職員と連携する関係機関の担当者
・施設・事業所に納品や修繕等で取り引きのある業者の担当者等
コミュニケーションが必要な相手との間にパートナーシップが欠けていれば、信頼は失われ、本音が言えず、一緒に仕事をしたり、問題解決に取り組んだりするのも嫌になり、場合によっては関係そのものを絶つことにもつながりかねません。裏を返せば、パートナーシップが感じられると、人は信頼や安心を感じ、意見や正直な気持ちを出せるようになり、一緒に何かを成し遂げたい、協力したいという気持ちが湧き、関係がより深まっていくということにもつながっていくのです。
職場の人間関係への影響
「コミュニケーション」と「パートナーシップ」は、「空気」と「酸素」の関係に似ています。
日頃、わたしたちは空気を意識しませんが、呼吸をしているので空気があることは知っています。空気中に含まれる酸素も、日頃の生活では自覚できませんが、呼吸をして肉体が生命活動を営んでいるということは、そこに酸素が含まれているということで間違いないでしょう。
スポーツ選手が高地トレーニングをしている映像を見ると、息苦しそうに呼吸しています。同じ肉体でも、酸素が薄い場所にいくと、途端に息苦しさを感じ、日頃のパフォーマンスを発揮できません。
失って初めて”それ“があったことに気づく。そして、”それ“がいかに重要なものであるかを痛感する。
よく人材課題のセミナー等では「コミュニケーションが大切だ」と言われますが、その質も同時に表現するとすれば「パートナーシップのあるコミュニケーションが大切だ」ということになるでしょう。
ここで、介護労働安定センターが平成30年度に実施した介護労働実態調査で調査した項目のうち、「労働者が抱える『職場の人間関係』等の悩み」(うち施設系(入所型)の回答)のデータに着目してみましょう。
・「部下の指導が難しい」(31.7%)
・「ケア方法等について意見交換が不十分である」(30.6%)
・「自分と合わない上司や同僚がいる」(27.8%)
・「上司や同僚と仕事上の意思疎通がうまくいかない」(19.7%)
組織を預かる者としては、いずれも避けたいトピックです。そして、わたしがこれまでに出会ってきた経営者やリーダーたちは、これらのトピックに悩まされている人が少なくありませんでした。
これらは、どれもコミュニケーションのとりづらさを象徴しています。そして背景には、「(ともに仕事をする)パートナーとして、安心で安全に、なんでもすぐに言えて、すぐに質問できる関係ではない」ということが隠れています。
ここまでくると、もう繋がりが見えてきている人もいるかもしれません。離職理由の上位にいつも「人間関係」がある背景には、前述のような「コミュニケーション不全」が横たわっており、コミュニケーション不全の背景には「パートナーシップの不在」が横たわっています。
パートナーシップを組織カルチャーに
「人には相性というものがあるから、人間関係の問題が起きるのは仕方がない」と諦めて介入しないという考え方や、「問題となっている当事者がいなくなれば解決するだろう」と異動させる考え方もあろうかと思います。
ただ、それではトラブルは続くので、「上は何も手を打ってくれない!」という不満が蓄積して、やはり辞めて欲しくない職員が辞めていくということにもなりかねません。
確かに人間関係はパーソナルな問題という側面はありますが、組織全体のコミュニケーションカルチャー(組織風土)に注目し、コミュニケーションが機能する環境を整えるというアプローチもあります。
例えば、私は、高級有料老人ホームでは「お風呂行くよ」というような馴れ馴れしい言葉づかいを聞いたことがありません。それなりの費用負担ができる経済力のある利用者・家族と接するような施設では、丁寧な言葉づかいを徹底するコミュニケーションカルチャーがあり、その職場で働いていると自然となれなれしい言葉づかいは避けるようになります。
そのくらいコミュニケーションカルチャーは、その場にいる人のコミュニケーションに影響を及ぼします。今回の連載では、どのようにしてパートナーシップのあるコミュニケーションカルチャーを作り上げていけばよいのか、そのポイントをおさえていきます。
料理と同じで、レシピ(知識)を手に入れても、作って(実践して)みないと微妙な火加減やさじ加減は身につきません。組織マネジメントも同じことが言えます。読者の皆さんには、ぜひパートナーシップを知識として「知る」だけにとどまらず、実践を通して”勘“や”観点“を身につけていただけることを心から願っています。
※ この記事は月刊誌「WAM」2020年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。