@言いたいことがあっても、本人に言わない人がいる
パートナーシップは、「パートナーとして安心で安全に、なんでもすぐに言えて、すぐに質問できる関係」に象徴的に現れます。本人に言わないということは、パートナーシップが欠けている以外の何ものでもありません。
「あの人のあの態度、どうにかならないかしら」と、いくら別の人に話しても、何も変化は起きません。本人に言わない限り、あなたがその態度にひっかかっていることも、訂正してほしいというリクエストを持っていることも、その人は知ることができませんから、訂正のしようがありません。
本人に言わずに、別の人にあれこれ話す人は、そのうちに「あの人はきっとこう考えているに違いない」と、本人に確認したわけでもないことを勝手に確信するようになります。そして、コミュニケーションが取りづらくなるような人物像をふくらませ、挙げ句の果てには「言ってもどうせ変わらない」と捉えるようになり、ますます本人とのコミュニケーションを避けるようになるという悪循環にはまっていきがちです。
こうした悪循環なコミュニケーションが、いずれ、その人のいないところで、その人のことを話題にする”陰口文化“として、職員の意識の中に根付いてしまうと厄介な問題が生じます。
退職や異動などの非公開情報がいつの間にか組織内に広がったり、突然、思いもよらない人から退職願が提出されたりする現象は、”陰口文化“の特徴です。自分のあずかり知らない水面下でのコミュニケーションが行われているのだとしたら、そこには安心も安全も感じることができなくなります。
A会議で発言せずに、終わってから不平不満を述べる職員がいる
あなたの組織の経営会議や全体会議は、参加者は自分の意見やアイディアを自発的に述べるような会議になっていますか? もし、答えが「いいえ」なら、会議運営にはいつも頭を抱えていることでしょう。
会議が終われば息を吹き返したようにしゃべる職員の姿を見て、歯がゆい気持ちになることもあるでしょう。ましてや会議での決定事項について、会議が終わってからああでもないこうでもないと意見していたという話を、あとから小耳に挟むと、「会議の時に言えよ」と言いたくもなるでしょう。
ただ、あなたが経営者や役職者として、その場に影響を与える立場なのであれば、その現象を個人の問題として捉えているだけでは、不十分です。むしろ、そういう現象を”場“が引き起こしていると捉える観点も、組織を預かる立場であれば必要です。
これは、@で挙げた”陰口文化“と密接に関係している場合が少なくありません。”陰口文化“は、見方を変えれば、「自分のいないところで何を言われているかわからない」という警戒心を職員に抱かせますので、会議で周りの目を意識して発言を控える行動を参加者にとらせてしまいます。
皮肉なことに、この会議で発言を控える行動が、ますます会議の場を安心・安全ではない空間にしてしまい、沈黙が沈黙を呼び拍車をかけることにもなります。
その発生の原因は、会議の進行にある場合もあります。中小規模のオーナー経営者の企業で散見されるのが、「なにか意見はないか?」と出席者に意見を求めながら、出された意見を「それは違う」、「熟慮が足りない」と頭ごなしに批評するケースです。自分が出した意見が即座にジャッジされる場では、「意見を言ってもしかたがない」とあきらめて、人はのびのびと発言しません。結果、発言が発言を呼ぶ(触発する)場にならず、出席者は”場外“(会議後)でそのフラストレーションを処理せざるを得ないのだとしたら、改善が必要です。会議を進行する立場にある人が安心・安全な場づくりをしなくてはならないのです。
B仕事を一人で抱え込む管理職がいる
仕事を一人で抱え込み、残業時間が突出している管理職はいませんか? この現象は、労働監督上、問題になるだけではなく、実は組織づくりに及ぼす影響も小さくありません。
管理職に仕事が偏っていると、そのポストにつきたいと思う職員は出てきにくくなります。
かつて、某社会福祉法人の方から、「給料は上がらなくてもいいから、とにかく主任やリーダーにはなりたくないという若手が増えて困っている」という話を聞きました。その法人は、キャリアパスとして、マネジメント(管理者)コースと、プロフェッショナル(専門職)コースを設けていましたが、担当の方は「どちらにも針路をとらないハピネスコースも作らないといけません」と冗談まじりに嘆いておられました。ワークライフバランスが問われる時代に、アンバランスな働き方をしている管理職をみて、夢や希望を見出すほど、職員の目は節穴ではありません。
一方で、そんな管理職の姿をみて、「わたしたちにできることは振ってください」と申し出る職員もいます。その申し出に感謝しつつも、「職員に負担をかけたくない」という思いから申し出をやんわりと断るケースもあります。
断る側は良かれと思っているのかもしれませんが、申し出ている側からすると信頼されていないように感じたり、一人で遅くまで仕事している管理職の姿をみて罪悪感を抱いたりする人もいます。
信頼とは、相手を信じて頼ることです。一人で仕事を抱える管理職は、チーム内の信頼を育むのと真逆の行為をしていることに気づかねばなりません。
ここまでは、パートナーシップの不在が、現在のチームメンバーにどのような影響を及ぼすかをみてきました。共通項として押さえておきたいことは、「信頼することへの恐れ」です。
自分が相手からパートナーとして頼られたり、サポートされているように感じなかったり、自分が相手をパートナーとして頼ったり、サポートしたりできていないと思うような関係性の職場が、「働き続けたくなる職場」として機能するとはとうてい思えません。
とある組織では、辞めた人の多くが、「新入職員(新卒・中途採用含む)へのウェルカムさが欠けている」と指摘していたそうです。
● 教育係以外の人から話しかけられることがほとんどない
● 業務以外の雑談やプライベートな話をする相手も時間もない
● わからないことを誰に聞けばいいのかがわからない
● 困っていることを伝えても、状況に変化がみられない
● 提案したことが検討されているのか、却下されたのかもはっきりしない
こんな指摘があるにもかかわらず、その職場はそれほど離職率は高くなかったのです。だからこそ、私はこれらの指摘は深刻な組織の実態を象徴していると考えました。
職員は信頼できるつながりが感じられていないうえに、不明確なことが不明確なままで疑問が解消されないということです。そのような空間に、入ったばかりの人が定着するはずもありません。にもかかわらず、離職率が高くないということは、「組織に馴染んでいる人は残って、馴染めない新人は残らない」職場ということです。採用・定着という観点からみれば、非常に門戸が狭い。そのため、採用しても続かないので、事業規模の縮小を余儀なくされたようです。
今回まではパートナーシップが組織にどんな影響を生んでいるかを押さえて来ました。第3回からは、いよいよ組織にパートナーシップを編み込んでいくポイントを押さえていきますので、乞うご期待!
※ この記事は月刊誌「WAM」2020年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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