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パートナーシップを組織に編み込む

全6回に渡って、「パートナーシップ」をテーマにお届けします。


<執筆>
 ミカタプラス代表 「 鎬洙 氏
大学卒業後、在宅介護サービス、施設介護サービス等で約20年従事。メンタルコーチ、ケアアドバイザーとして、様々なリーダーと関わる中で、「パートナーシップ」のあるコミュニケーションを職場に定着するプログラムを開発し、介護施設・医療機関に提供している。「理由を探る認知症ケア」著者、パラダイムシフトコミュニケーション®トレーナー、兵庫県介護支援専門員実務・更新研修講師、介護福祉士・介護支援専門員・主任介護支援専門員


第3回:パートナーとしての“態度”を示す

 第3回からは、パートナーシップを組織に編み込んでいくためのポイントをおさえていきます。パートナーシップとは、パートナーとしての態度・行動・関係を総称するものですが、そのなかでも、態度は行動や関係を規定するため、パートナーとしての態度(あり方)が最も重要になります。では、パートナーとしての態度が芽生えるためには何が必要でしょうか。

@一緒に進む方向が一致している

 甲子園に出場し、いずれはプロ野球選手になりたいと願っている中学生がいるとしましょう。その少年は、自分の夢を叶えるために、甲子園出場の可能性がある学校を進学先に選ぶでしょう。同じように「甲子園出場」という志をもった仲間が集まれば、ライバルとして切磋琢磨しあいながらも、仲間とともに喜びも苦しさも悔しさも分かちあう体験を通して、ともに何かを作り上げることの大切さを学んでいくでしょう。

 このように、人と人がパートナーとして結びつくうえで、『一緒に進む方向(ベクトル)が一致していること』は、外せない条件です。

 相思相愛の恋愛結婚をしたものの、子どもを産み育てるかどうかで考え方が一致せずに離婚した芸能人もいました。向かう方向が違えば、パートナーとしていられなくなるわけですから、袂(たもと)を分かつのも致し方ありません。

 そして、本来は就職も同じことが言えるはずです。とある高校の先生が「うちの生徒は、(あまり大差のない)給料や勤務地よりも、研修がしっかりしているか、資格取得の支援があるか、サークル活動等で職員間の交流機会があるか、といったこともチェックしています」とおっしゃっていました。

 彼らがチェックしている項目は、経営者が「社員を大切にする」というベクトルをもっているかどうかです。そして、社員を大切にしている法人だと判断したら、その法人の資料を集め、説明会や施設見学会に訪れ、エントリーしてくるのでしょう。

 他方、採用する側にとっても、「残業はどのくらいありますか」、「有休はとりやすいですか」といった条件面ばかりを確認する応募者と、「ホームページの理事長のあいさつに共感しました」という応募動機を述べる応募者とでは、後者の方がパートナーとして採用したくもなるのではないでしょうか。

A疑問に思ったことが言える

 一般的に、組織のベクトルは「理念」や「行動指針」として明文化されています。ホームページに掲載し、施設の正面玄関に大きな額縁に入れて飾り、朝礼で唱和をしているところもあるでしょう。

 しかし、これでは絵に描いた餅に終わってしまうことも少なくありません。ホームページは外部の方に向けたものなので職員は頻繁に見ませんし、正面玄関の額縁も職員にとっては風景の一部になっているため、そこに立ち止まって、熟読して、自分を振り返るということもしないでしょう。

 朝礼の唱和は、意識をするうえでは一定の役にはたちますし、その理念通りに現場が運営されていれば、唱和のたびに組織のベクトルを大切にする態度が育まれるので有効だと言えます。

 しかし、理念とかけ離れた現場の運営がされていると、理念の唱和は「言っていること(組織のベクトル)とやっていること(実際の現場)が違う」ということを再認識する行為になるため、ベクトルの求心力を弱め続けるプロセスになり、パートナーシップを育むうえでは逆効果です。

 理念と現実に不一致が起きることはあります。そんな時に、『疑問に思ったことが言える相手がいること』は、その人が法人と袂を分かつことになるか、パートナーとして働き続けるかの分かれ目になると言っても過言ではありません。

 とある施設で、職員の配置を巡って起きた失敗例をあげてみましょう。事務長は数字上の人員は充足していると判断して、リーダーに異動を打診しました。しかし、リーダーは入って2カ月に満たない未経験の新人がいたので、せめてあと2カ月は指導したいと申し出ていましたが、事務長はリーダーを強制的に異動させました。リーダーが別施設に異動後、元のフロアでは職員から次々と退職願が出される始末となりました。どうやら、自分たちの意見や疑問に耳を傾けてくれていたリーダーが異動になったことが原因だったようです。疑問を持ち出せる場があることは、パートナーとしての態度を育むうえで、見過ごせない要素だと言えそうです。

B「意見の食い違い」が人間関係を損ねない

 同じ施設に働く職員同士であれば、目指す方向性や大切にしたい価値観をすりあわせながら、パートナーとしての態度を育んでいくことになります。ところが、意見が違ったことを根に持って関係をこじらせる人がときどきいます。

 意見が食い違うこと自体は、すりあわせればいいだけなので問題ではありませんが、そのことで関係がこじれるようなことが起きると、次から安心して意見を述べられなくなります。なにより、パートナーとしての態度が育まれにくくなってしまいます。

 そのような場面に遭遇した時には、これは「お互いに意見が違う背景をわかりあおうとするパートナーとしてのコミュニケーション」なのか、「相手の意見を叩きのめそうとする敵としてのコミュニケーション」なのか、どちらのコミュニケーションが起きているかをよく観察してみてください。

 とくに、後者は「意見」と「人格」を分別できていないケースが多いので、リーダーには「意見」と「人格」を分別する冷静な態度が求められます。

 意見の食い違いには、(1)ベクトルが一致しているなかで起きる食い違い(方向性◯・方法×)と、(2)ベクトルが一致していないなかで起きる食い違い(方向性×・方法×)があります。

 (1)の場合は、パートナーとして作りたい結果が一致していれば、作り方はさまざまに試行錯誤が可能なので、意見はすりあわせしやすいでしょう。A案とB案があれば、どちらも試してみるような柔軟さをもてればOKです。

 (2)の場合は、方向性が一致していないので、根拠とする情報や判断基準がそもそも違います。その違いを明確にする会話を行い、どの方向性でどの問題を解決するかの糸口をみつけられればOKです。

@ 一緒に進む方向が一致している

A「おかしいな」と思ったことが言える

B 「意見の食い違い」が人間関係を損ねない

 リーダーは、これら(@〜B)を言葉にして明確に伝えることで、相手にパートナーとしての態度を示すことができると同時に、相手からもパートナーとしての態度を引き出すことができます。

 例えば、新人研修の初日で、あなたが新人だとしたら、どちらのメッセージに教育係のパートナーシップを感じるでしょうか。

パターン1 「Aさんには、いろいろ教えていくので、メモして、ひとつひとつ覚えていってくださいね。わからないことがあったらなんでも質問してください。では、いきましょうか」

パターン2 「Aさんには、利用者さんにとって何がベストか?を考えながら、ひとつひとつの仕事の背景や価値を理解してもらいたいと思っています(@)。そして、研修のなかで疑問に思うことがあれば質問してください。こんなこと確認するのは恥ずかしいなとか思わずに、遠慮せずに質問してくださいね(A)。もしかすると、やり方や考え方が自分とは違うなと思うこともあるかもしれません。そういう時は、遠慮なく考えや意見を聞かせて欲しいんです。意見が違うからと言って、わたしがAさんとの関係をこじらせるようなことはしないと約束しますからね」

 後者のようなメッセージを伝えられると、研修期間中はもちろんのこと、研修後も信頼できる先輩として頼りやすくなるでしょう。今回、押さえた@ABの要素を、会話のなかに意識して取り入れることから、まずは始めていきましょう。

※ この記事は月刊誌「WAM」2020年6月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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