社会福祉法人の経営ガイド
この連載では、社会福祉法人という対象に絞った経営の考え方を皆さんとともに共有していきます。
<執筆>
独立行政法人 福祉医療機構
経営サポートセンター シニアリサーチャー
千葉 正展
前回までは社会福祉法人のキャリアパス策定のポイントなどについてみてきました。本連載の最終回となる今回は、社会福祉法人制度に関する直近の動きとして、社会福祉連携推進法人制度と社会福祉法人の事業展開に係るガイドラインについてみてみましょう。
社会福祉法人の事業展開に関する制度化
令和2年6月12日に「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」が公布されました。そのなかで社会福祉法が改正され、社会福祉連携推進法人が制度化され、法律の公布後2年以内の政令で定める日に施行されることとなりました。
また、厚生労働省は令和2年9月11日に「社会福祉法人の事業展開に係るガイドラインの策定について」(社援基発0911第2号 社会・援護局福祉基盤課長通知)が、さらに同日「社会福祉法人の合併事業譲渡等マニュアル」(社会・援護局福祉基盤課事務連絡)が発出されました。
これらの諸制度は、一言でまとめると社会福祉法人の「連携・協働・合併・事業譲渡」などに関するもので、社会福祉法人の事業展開として検討されてきたものです。
社会福祉法人の事業展開検討の背景
ここにきて社会福祉法人の事業展開が取り上げられるようになった背景には、いくつかの要因があったように思われます。
1点目の背景要因は、社会福祉法人制度改革です。地域における公益的取組を実施する責務が定められ、各地で複数の法人が連携・協働して責務を果たそうとする動きが始まったことが、事業展開の検討の背景要因と考えられます。
2点目は、地域共生社会の動きです。人口減少や急速な高齢化、地域社会の脆弱化によって、地域の福祉ニーズは多様化・複雑化し、従来のように福祉各法で想定する典型的な福祉ニーズに対して縦割りでサービスを供給するのでは、対応が困難になり、地域のニーズを起点に制度別のサービスや制度外のサービスに横串を通すことが求められています。
3点目は、2040年問題です。人口減少社会そして急速な高齢化にともなって、現役世代である生産年齢人口の割合が急速に減少することが予想されています。そのなかで社会にあるヒト・モノ・カネの諸資源を効率的かつ効果的に活用するため、ICTやロボットなどだけでなく、福祉サービスの供給メカニズムの抜本的な見直しが求められ、連携・協働化・大規模化が、有望な手段だと期待されています。
一方、4点目として、国の政策においても社会福祉法人の規模については、これまで幾度となく議論されてきました(「社会福祉法人経営の現状と課題(平成18年)」、「社会福祉法人における合併・事業譲渡・法人間連携の手引き(平成20年)」、「社会福祉法人制度のあり方について(平成26年)」)。
最近では成長戦略フォローアップとして、未来投資会議などにおいて、社会福祉法人等の規模拡大・協働化の検討が求められました。
社会福祉連携推進法人とは
社会福祉連携推進法人(以下、連携推進法人という。)とは、社会福祉連携推進業務を行おうとする一般社団法人で、改正社会福祉法の規定に基づいて所轄庁によって認定を受けたものをいいます。
連携推進法人の設立
連携推進法人を作るには、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)に基づいて一般社団法人を設立・登記したうえで、社会福祉法の定める所轄庁に社会福祉連携推進方針等の書類を添えて認定の申請を行い、所轄庁から認定を受けることが必要です。
所轄庁
一般社団法人の制度は、準則主義に基づく極めて簡素な(行政等の監督のない)制度です。しかし、連携推進法人の社員は、行政の指導監督の下にある社会福祉法人がなることから、規制の弱い一般社団法人制度のままだと悪用され、不正の温床になりかねないため、所轄庁の認定に関わらせしめて、その指導監督の下に置くこととされました。
経営機関
連携推進法人の経営機関としては、一般社団法人の仕組みを使い、最高議決機関である社員総会や、執行機関である理事会が置かれます。また、連携推進法人では監事の設置も求められます(理事6人以上、監事2人以上)。社員の構成については「社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者又は社会福祉法人の経営基盤を強化するために必要な者として厚生労働省令で定める者を社員とし、社会福祉法人である社員の数が社員の過半数であること」と定められています。
社員総会における議決権については、制度の検討プロセスにおいては、社会福祉法人に過半数の議決権を付与させるべきとの意見が出され、省令において定められることとされました。
評議会
一方、地域の実情によっては当該連携推進法人が地域福祉を独占する弊害が懸念される可能性があることから、地域の関係者による「社会福祉連携推進評議会」を置くこととされ、その議事の公開等を通じて透明性の高い法人の運営を目指すことになっています。
社会福祉法人の事業展開に関するガイドライン等
次にガイドライン等についてみてみましょう。社会福祉法人の合併や事業譲渡等については、先述の通り、平成20年に「手引き」が作成されたものの、その後も社会福祉法人の合併等の事案に際して、所轄庁がその手続きに疎い等、円滑な展開に問題があったと指摘され、さらに平成28年からの社会福祉法人制度改革において、法人制度の根幹についても大きな改正が行われたことも踏まえ、「手引き」の抜本的な見直しを行うこととなりました。それが「合併・事業譲渡等マニュアル」です。
また先の「手引き」は、社会福祉法人経営研究会という任意の組織の作った文書を厚生労働省の事務連絡として周知を図ったものであり、厳密には、厚生労働省が出した文書ではないと受け止められていました。そこで今次の事業展開の検討にあわせて正式な通知文書として「社会福祉法人の事業展開等に係るガイドライン」が制定されることになったと考えられます。
ガイドラインの具体的な内容は、現行の社会福祉法における社会福祉法人の合併に関する規定を踏まえ、法令で要求される手続きとその留意点が簡潔にまとめられています。事業譲渡については、社会福祉法人の設置根拠である組織法上には規定がなく、財産・職員・利用者・業務委託契約などを包括的に承継する合併と異なり、個別に契約行為を行う必要があります。こちらについても法令上要求される主な手続きとその留意点を取りまとめています。
これからの事業展開に向けて
これからの社会福祉法人が直面する事業環境は、地域における福祉ニーズの多様化・複雑化、地方人口減少によるニーズの激減、福祉人材の確保難、経営の後継者難など、大きな転換期に差しかかっています。これからの社会福祉法人の新たな事業展開が期待されます。
一方、社会福祉の分野について振り返ってみると、そもそも昭和26年の社会福祉事業法ができた頃から、地域の福祉事業を担う者の参加による会福祉協議会という組織が存在していました。その意味では、社会福祉法人の事業展開は古くて新しい問題といえるでしょう。
地域のニーズを見極め、それに最もうまく対応できる方策として、個々の法人間の連携、社会福祉協議会の場を活用した連携、新しい社会福祉連携推進法人の制度を活用した対応、そして法人の合併や事業譲渡など、多様なメニューが用意されました。しかし、これは制度という器ができたに過ぎません。そこにどのような中味を盛り込むか、民間社会事業としての大胆かつ柔軟な発想で活用され、地域福祉がますます増進されていくことを期待したいと思います。
※ この記事は月刊誌「WAM」2021年3月号に掲載されたものを掲載しています。