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ケアマネジャーのしごとガイド

2.ケアプランの背景情報を確認しよう−その1

2.ケアプランの背景情報を確認しよう−その1
これから、実際のケアプランについて考えていきます。とはいえ、ケアプランは利用者の個別性に即して作成されるものです。一律に「こう作りましょう」とは言えません。そこで、読者を代表して新人ケアマネジャーの鈴木ゆり子さん(仮名)に登場していただき、利用者Kさんの実際のケアプランをてがかりにしながら、一緒に考えていく形で進めていきたいと思います。自分ならどんなふうに考えるか、どのような情報をどう分析するかなど、鈴木さんと比べながら読み進めてください。また、Kさんに関する情報は、居宅サービス計画書の第1表と第2表以外に、特にまとめて提示しませんので、本文を読みながら情報を整理してみてください。
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ケアプランの背景情報を確認しよう

鈴木さん、よろしくお願いしますね。私の説明が足りなかったり、何が言いたいのかわからなかったら、遠慮せずにおっしゃってくださいね。

こちらこそよろしくお願いします。まだ経験も浅いし、とても緊張しています。勉強して少しでも自信を持って訪問できるようになりたいと思っています。

さて、まずは鈴木さんのことを少し教えていただけますか?

はい、私は今年39歳になりました。最初はヘルパーとして働き始め、介護福祉士を取得し、37歳の時にケアマネジャーの資格を取りました。現在の居宅介護支援事業所には1年前に採用され、その時からケアマネとして働いています。

それまでは、ずっとヘルパーさんとしてお仕事なさってきたのですか?

そうです。ケアマネの資格を取ってからも、しばらくは「自分にできるかなぁ」と迷っていたのですが、縁があってケアマネになってしまいました(笑)。

でも、今でも不安に思うことがあるんです。実は私、特に苦情が来たというわけではないのですが、なんとなく利用者の思いや希望をつかみきれていないような気がしています。自分の思い込みかもしれないと思うと、プランも自信を持って提示できないんです。Kさんのプランに関しても、これでいいような悪いような、なんだかしっくりこないものを感じています。

そんなに自信のない方に見えませんけどねえ(笑)。でも自分の現状についてしっかり問題意識を持つということは、対人援助職にとってとても大切なことです。この機会をとおして自信を持っていただけるように、私もお手伝いしていきたいと思います。

さて、今日は居宅サービス計画書を持ってきていただいていますよね。それを見せていただきながら、確認したい点について質問する形で始めていきたいと思いますが、それでよろしいですか?

はい。結構です。

Kさんは、今回脳梗塞で入院され、退院して初めて介護保険サービスを利用するのですね。少し家族背景などを教えてください。ご家族は、息子さんご一家も同居と考えていいですか? お孫さんはいらっしゃるのかな?

(驚いた様子で)そうです。どうしてわかったんですか?

第1表の「利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果」欄と「総合的な援助の方針」から予想しました。「脳梗塞が再発しないように」とありますから、要介護状態になった原因はこれだなと考えたわけです。また意向の欄で、Kさんは「以前のように」という言葉を繰り返していますし、一方で奥さまは「どこまでできるか」と不安を表明なさっているので、病気になられて初めて自宅にお戻りになったのではないかと思ったのです。

そのとおりです。半年前に倒れられて入院し、約1か月後にリハビリを目的に転院なさり、そこで介護保険の申請を勧められ、退院の目処の立った4月初めに病院のソーシャルワーカーから事業所に連絡が入り、私が担当することになりました。ご家族は息子さんご夫婦のほか、この4月から中学生になった孫娘さんがいらっしゃいます。

息子さんご一家にはお会いになったことはありますか?

はい、初めて病院にKさんに会いに行った時に、息子さんもいましたし、ご自宅へ伺った際は、お嫁さんがいろいろお話ししてくださいました。その時は、お孫さんには会えなかったのですが、Kさんご夫妻からよくお話を伺います。

仲のよいご家族のようですね。第1表を見ると息子さんたちは働いていらっしゃるようですが、具体的にお仕事についてお聞きになっていますか?

はい。息子さんご夫妻は会社員でかなりお忙しいようなお話です。いつも帰宅時間が遅いし、土日も仕事になることもあるようです。奥さまはKさんの入院を機に、少し仕事時間を見直したように伺っています。

それはどなたからお聞きになったことですか? また、そんなにお忙しいのに、息子さんはよく病院へ来てくださったものですね。

そうですね。でも、そんなに忙しいような印象は受けませんでした。(独り言のように)誰が言ってたんだっけ・・・Kさんの奥さまだったような気がします。

ここは少し大事なことなので、説明させてくださいね。息子さん夫婦の仕事についてのKさんと奥さまの受けとめ方と、鈴木さんの受けとめた印象が違うということですね。事実をどう受けとめるかということは、その方の考え方、価値観と密接に関係してきます。ですから、情報を事実として受けとめる際には、鈴木さんから見た「事実」なのか、情報をくださった方にとっての「事実」なのかを吟味しておくことが重要になります。

・・・事実じゃないってことですか?

そうではなく、少しバイアスがかかっているかもしれないぞということを意識しておくということです。「息子さんはすごく忙しくて休みもない。お嫁さんは仕事時間の調整をしてくれている」と奥さまが言ったこと自体は、奥さまがそのように現状を受けとめているという事実として捉えます。一方で、鈴木さん自身は、実際の息子さんやお嫁さんの勤務時間を把握していないということを認識しておく必要があります。

はぁ・・・。(よく飲み込めない様子)

Kさんや奥さまは、忙しい息子夫婦に負担をかけたくないという思いと同時に、あてにできないという覚悟や不安もお持ちではないかと思うんです。そうした思いが、実際はそれほど忙しくなくても、いつも帰宅時間が遅いとか、土日も仕事という言葉で表現されているかもしれないという意味です。

また、そんななかでも病院へ来てくれたり、お嫁さんが自宅で待っていてくれるということも、息子さん夫妻の協力の姿勢や、家族関係がよいことを示しているように感じます。

なるほど、私はいつの間にか奥さまの言葉どおりに忙しいと思いこんで、息子夫婦はあまりあてにしてはいけないと思っていました。実際は、そうじゃないかもしれないってことですね。

直接会うチャンスがあったら、自分で確認するといいですね。また、どんなことならできるのか、したいのかも聞いておくとよいと思います。

はい。そうしたいと思います。

話は変わりますが、利用者の生活の意向の中で「以前のように」という表現が2回使われていますが、いつの・どのような状態を意味していますか?

脳梗塞の発症前の、ご自分で身の回りのことをすべて行うことができていた時のことです。

そうですよね。ではそのことはKさんと話し合われて決めていますか?

話し合ったというか、Kさんから「以前のようになりたい」と言われましたから、その通りに記載しました。

これは「もしも」という仮定の話なのですが、ケアプランに「以前のようになりたい」と記載したにもかかわらず戻れなかったらKさんはどう感じるでしょうか?

鈴木:とても残念に思われると思います。

残念に思われるんですよね。

はい。とても残念に思われると思います。

残念だけでしょうか?他には考えられますか?

悔しいと感じるかもしれませんね。

そうですね。元通りにならなくて悔しいと感じられると考えられるわけですね。

以前のように戻りたいとおっしゃられていたのでそれが実現できないとなればとても悔しいと思います。

では現実的に元通りに戻ることができると誰かが保証しているわけですか?

それはないです。病院のスタッフもリハビリの先生も今以上に良い状態になることは難しいと想定しておられます。

ではどうしてその状況で「以前のようになりたい」という利用者の意向を設定したのでしょう。利用者の「希望」や「要望」ではなく「意向」として設定したのでしょうか。

やはりKさんご自身がそうなりたいと言われましたので…

ここが落とし穴の一つです。Kさんにしてみれば「元に戻れる」と信じてサービスを受け、活動していきますが、決して元通りにはならない。この状態が続いていけば良くなろうとするモチベーションはどうなっていきますか?

下がっていくだけで、最終的にはサービスを利用したいとは思わなくなるでしょう。

では、そこは削除しましょう。

はい。

具体的な介護の必要性と不安

次に、奥さまの膝関節症の具合はどの程度かご存じですか?

痛みがあって、整形外科医院に通院し、湿布をもらっているという話でした。

どんなときに痛みが出るかはわかりますか?

疲れたときとおっしゃっていました。歩きすぎたときとか。

鈴木さんから見て、Kさんの介護は奥さまにとって負担でしょうか?

絶対に負担だとは言い切れませんが、期間が長くなると支障が出るのではないかと思います。

Kさんは生活のどんな部分に介護が必要なんですか?

一番心配されているのは歩行の部分です。トイレを使いたいそうなのですが、奥さまは「部屋からトイレまで段差もあるし、転びそうで怖い」とおっしゃっていました。Kさんも病院ではトイレまで入ってそこで看護師を呼んで介助してもらっていたということで、できるだろうと言いつつも不安もお持ちのようでした。毎日のことだし、奥さまにばかり世話をかけたくないともおっしゃっていました。

Kさんがトイレに行くのに、どんな介助が必要なのですか? また、トイレで看護師が行っていた介助の内容はわかりますか?

なんとか独歩可能ですから、そばにいて見守ったり、転びそうになった場合に支えることになると思います。

(独り言のように)奥さまが心配しているのはそこですね。

えっ?

ごめんなさい、続けてください。

トイレでは、ズボンの上げ下げを介助してもらっていたのと、立ちしゃがみの見守りの介助を受けていたそうです。

ありがとうございました。そうしますと、ポータブルトイレであればどんな介助が必要になると思いますか?

今、ご自宅でお使いのポータブルトイレの場合は、ほぼ見守りだけです。退院してすぐに訪問した際に、実際に座って見せてくださったのですが、ポータブルとベッドを上手に使って身体を支え、ズボンも下ろせるということでした。

わかりました。では改めて確認しますが、奥さまの感じている「不安」とは具体的に確認されていますか?

いえ、確認はしていないです。確認すべきだったのでしょうか?

そうですね。これから介護が始まるという状況に対して不安のないという人はいないでしょう。誰しもがなにがしかの不安は感じるものです。でもその具体的な内容や不安の程度は一人ひとりみんな違ってきて当たり前です。だから不安の具体的な状況がわからないと対応のしようがなくなってしまうのです。

ではちょっと想像してみましょう。奥さまが感じている不安の内容とはどういうものなのだろうかを。

トイレへの移動時に、そばにいて見守りをしたり転びそうになった時にご主人を支えることができるかということに対する不安でしょうか?

なぜそう考えたのでしょう?

はい、先ほど中村さんが独り言のようにボソッとつぶやいたことが気になっていました。だからそうなのかと…。

やっぱりばれていましたか!奥さまの最大の不安は、介護が必要になったけどそれが自分にできるかということではないでしょうか。でもこれもまだ推測の域を出ません。どうすれば事実とすることができますか?

はい、奥さまに不安の具体的な内容を確認すればよいということですね。

そうです。後はそれをいつ・どのように実施するかということになります。さて、病院から病気について何か注意するようなことは聞いていらっしゃいますか?

定期的に受診して、薬をきちんと飲むようにと言われているそうです。これは、Kさんからお聞きしました。今のところは2週間に1度の通院ですが、落ち着いているようであれば、1か月に1度でよくなるとも聞いています。

Kさんはきちんとした方で、ご自分のこともしっかりおわかりのようですね。詳しいお身体の様子などは、第2表を見ながら確認させてください。

監修者
中村雅彦(JA長野厚生連北アルプス医療センターあづみ病院 居宅介護支援事業所)

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