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ケアマネジャーのしごとガイド

6.サービス担当者会議でのケアプランの検証

6.サービス担当者会議でのケアプランの検証

 ここからは、次の段階として、作成したケアプラン原案をサービス担当者会議において、どのように提示し、参加者から検証してもらい、ケアプランを確定していくかを考えてみましょう。
 今回のサービス担当者会議開催の目的は、あくまでもケアプランの確定です。サービス担当者会議の目的には、ほかにもチームメンバーによる目標の確認や、評価のすりあわせ、状況の変化に伴う緊急の対応策の検討など、さまざまなものがあります。これから述べる方法が必ずしもすべてのサービス担当者会議に活用できるものではないことを、あらかじめ承知してください。

 鈴木さんは、ケアプラン原案の作成に先立ち、ご本人や奥さま、サービス事業所などから情報を集めています。すなわち、サービス担当者会議に参加するメンバーは、全体像は知らなくても自分がかかわってきたプランに関して、意向を伝えてあるはずです。また、退院後2か月が過ぎて、初回プラン作成時よりも皆が多くのことを理解し、Kさんに貢献できることもはっきりしてきた時期だと考えます。会議の場では、こうしたこともKさんやご家族に伝えていきたいものです。では、鈴木さんのサービス担当者会議を見ていきましょう。なお、文章中で触れているケアプランの内容については、これまでの記述を参照してください。

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サービス担当者会議の開始にあたって

サービス担当者会議はKさんの家で開かれ、参加者は、Kさんと奥さま、鈴木ケアマネ、A訪問介護・管理者Aさん、B病院の訪問リハ・理学療法士のBさん、福祉用具事業者のCさん、D病院のS先生は参加できないため、照会状が届いています。

今日はお忙しいところをお集まりいただきありがとうございました。今日は、初回プランを見直して新しいサービス計画を作るために会議を開催します。よろしくお願いします。お手元に原案をお配りしてありますので、確認しながら進めていきたいと思います。途中で何かお気づきのことなどありましたら、遠慮な発言してください。(Kさんと奥さまに向かって)わかりにくいことや、おかしいと感じたときもおっしゃってくださいね。

よろしくお願いします。

(全員がうなずく)

では、第1表から説明させていただきます。Kさんの意向として「病気になる前のように自分の生活を自分で考えて暮らしていくために、周りの人の力も借りながら、自分で考え、決めていきたい」としました。Kさんは、ご自分の考えをきちんとお話ししてくださいますので、その考えに協力するようにしていきたいと思います。また奥さまの意向は「夫が自分の暮らしを決めていけるように協力してお手伝いしていきます」としました。(Kさんへ)病気になる前のようにというと、どういうことがあげられますか? もう少し、具体的なことを聞かせていただけると嬉しいのですが。

元気な時は、一人で出かけたり、趣味のカメラをいじったりしていたのだが、今は、この身体では難しいね。まあ、家の中を心配かけずに好きなところへ行って好きなことをしたいね(笑)。

カメラですか? 今度Kさんの作品をぜひ見せてください。

素人のもので恥ずかしいよ。ま、機会があったら見ていただこうか。

Aさん・Bさん:私にもぜひ見せてください。

よく出かけた折りには、景色のよいところで記念に写真を撮ったりしました。でもまだ、整理していないものも多いんですよ。あなた、あれは見てもらいましょう。コンクールに出品して入賞したこともあるんですよ。

すごいですねえ、それはぜひ見たいです。皆さんも同じ気持ちのようですから、よろしくお願いします。では、この「病気になる前の生活」の具体的な部分は、自宅内を自由に動いても心配をかけないようになることが、まず当面のことで、将来的にはもっと出てくるようにしたいです(周囲に目を配り、疑問や意見がないか確認しながら)。

さて、奥さまの意向についてですが、もし付け加えることがあれば、おっしゃっていただけますか?(と奥さまへ語りかける)

(笑顔で)特にはありません。主人のそばにいたいと思っています。

では、このままにさせていただきます。続けて「総合的な援助の方針」ですが、Kさんや奥さまの意向を大事にしながら、必要な時に必要なサービスの利用を目指していきたいと思います。

個々のサービス計画内容の確認

では、計画書の2に入ります。今回、私はニーズを大きく「できるだけ自立した生活をしたい」とまとめましたが、先ほどKさんから、「自由に自宅内を動きたい」とお話があったので、それを取り入れたいと思いますが、いかがでしょうか?

そうすると、長期目標の2番目(一人で外出できる)がずれませんか?

私も少し検討したほうがよい気がします。

ありがとうございます。皆さまの力をお借りしてよりよいプランにしたいです。Kさんのお話を優先し、「自由に自宅内を動くことができる」を長期目標の1番目にし、2番目の短期目標を活かしていくというのではどうでしょうか?

いいと思います。よりわかりやすくなりますね。でも、それだけでいいのかな。

何か加えるべきでしょうか。

(Kさんへ向かって)さっきおっしゃっていたのは、歩くことを指していたのではなくて、自由な時間をお過ごしになりたいということに感じましたが。

(うなずく)

カメラのお話を伺ったので、カメラを持って撮影に出かけるのはまだ無理かもしれませんが、撮りためていらっしゃる写真の整理なら家の中でできるし、それを新たな長期目標に対する短期目標に追加してはいかがですか?

利かないほうの手をうまく使っていく訓練としても、興味があってしかも成果を皆に見てもらえていいですね。

Kさん・奥さま:いいですね。やってみたいです。

作業をしやすくするための用具などもありますから、Bさんと一緒に考えられると思います。

ありがとうございました。

では、長期目標の順番について確認します。私は、会議の前にはっきりしていたことからこの順番にしました。また、トイレに関してはほぼ現在のやり方で不安がなくなってきましたので最後にしました。しかし今の話し合いを受け、またはじめにKさんが発言してくださったことと合わせて、「自由な時間を過ごすことができる」という目標を1番にし、その短期目標として、Aさんから提案いただいた「撮りためた写真の整理ができる」とします。サービス内容としては「必要な動作を身につける」をBさんにお願いし、「作業に必要な物品の検討」をBさんとCさんに、また「写真を選んで準備する」をKさんと奥さま、そしてAさんにお願いしたいと思います。続けて、3番目の長期目標(一人で過ごすことができる)に対してはいかがでしょうか。

Kさんは電話に出ることもできますし、留守番(短期目標の3)は大丈夫じゃないですか?

実際にお一人になったことはありますか?

また何かあったらと思うと心配で、一人にしたことはありません。

Kさんはどう思われますか?

ずっと一人というのは心細い気もするが、まあできそうな気がしますね。

奥さまは、病気で倒れた時のことがまだ忘れられないのですね。もう少し時間が経てば、安心できることと思います。リスクという書き方をしてしまいましたが、どんな場面が困るかを皆さんの力を借りてシミュレーションし、その対応を考えていくことで、安心していただけると思いました。

私もまだこの身体とつきあいが浅くて、実のところ想像できないんですよ。

何が心配かと言われると、はっきりは言えないですね。

では、このサービス内容に関しては、「一人でも対応できるように、さまざまな場面を想定し、検討する」とし、皆さまの名前を追加させてください。

(うなずく)

(残りの目標、内容の検討に関しても同様に意見を聞きながら行われた)

では、「総合的な援助の方針」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。1表の「総合的な援助の方針」についてですが、ケアマネジャーである私から計画書に記載しているような内容で提案をしたいと思います。提案に対してご意見をいただきたいと思います。

Kさん・奥さま:私たちはこれで十分だと思います。(奥さまうなづく)

これでよいと思います。

では提案の通りで問題ないということを確認させていただきました。続いて、今後発生する可能性のある緊急事態について協議したいと思います。専門職の皆さんからこのような事態の発生の可能性があるというご意見をいただければと思います。

主治医はどのような判断をされていますか?

主治医には確認していません。Kさん、日ごろ主治医の先生から今後の生活で留意するように指示されていることはありますか?

ともかく転ばないようにすることと、脳梗塞の再発防止のために投薬は指示通りに服用し、適度な運動と塩分控えめの食事をと指示されています。

なるほど、主治医は転倒による事故の発生の危険性と主病の再発を一番懸念されているようですね。となると想定される非常事態は転倒による事故と脳梗塞の再発と言えるのではないでしょうか。

そうですね、転倒しないように日ごろから十分に注意して動いていますし、妻も口を酸っぱくして転ばないようにと注意してくれています。

支援が始まったころは自分も何をしてよいかわからなくて困っていましたが、今ではだいぶ慣れてきましたけど、それでももし転ばれてしまうと一人では起こすこともできないし、もし転んでけがをしてしまうと生活も一変してしまうので転ばないということはとても大切です。同様に脳梗塞の再発も生活を一変させてしまうので可能な限り避けていきたいと思います。

では想定される緊急事態としては「転倒」と「脳梗塞の再発」ということでよろしいでしょうか?

全員 :(うなずく)

あってはならないことですが、万が一今話した緊急事態が発生してしまったときにはどう対応したらよいでしょうか。

転倒の際、自宅で動くことも困難な状況であれば迷わずに救急車を呼んでいただいたほうがよいです。動かしても痛みがさほどではないようでしたらヘルパーさんを呼んでいただいて起こしてベッドで休んでいただき、できるだけ速やかに病院に受診していただきたいと思います。

ヘルパーには緊急事態に対応できる支援もありますから、そのような場合には奥さま一人で動かそうとせずにヘルパーを呼んでください。

わかりました。呼ばないことが一番ですが、万が一の時にはお願いいたします。

脳梗塞への対応はどうでしょうか。

これはもう救急車で受診ということになろうかと思いますが。

そうですね。できるだけ早く医療につなげたほうがよいだろうと思います。

これもあってはならないことだけど、万が一の際には救急対応します。

それでは転倒の際には状況に応じて救急対応、またはヘルパー対応で、脳梗塞の際には救急対応で、ということにしたいと思います。なお、対応した場合にはその結果を私までご連絡をお願いいたします。

サービス担当者会議の終わりに

皆さんご協力ありがとうございました。今日検討していただいて追加になった部分を直して早急にお届けします。Kさんへは、明日持参しますね、その際S先生にもお届けして来ようと思います。ほかに何かお話しになりたい方はいらっしゃいませんか?

皆さんにお礼が言いたい。これまでもよくしてもらったが、今日皆さんに私のことを考えてもらって、もっと元気になれるし、諦めることなどないという気がしました。またわがままを言いますが、よろしくおつきあいください。

私も安心できました。一人で考え込まずに、皆さんの力を貸してもらおうと思いました。これからもよろしくお願いします。

鈴木・Aさん・Bさん・Cさん:こちらこそよろしくお願いします。最後に、事業所の皆さんに一つお願いがあります。個別援助計画が作成できましたらケアマネジャーまでご提出をお願いいたします。

全体を振り返って

サービス担当者会議の様子はいかがでしたでしょうか? 鈴木さんの発言に対して皆さんから意見や提案が出されていました。多くの時間をKさん夫婦と過ごしてきたAさんは、Kさんの表面的な言葉にとらわれずに、受けとめたことを発言しています。そのことでプランに広がりを持たせることができ、またそれぞれが貢献できることを提案する場につながっていました。

鈴木さんは、ケアプランの言葉遣いの不十分な点などを認め、チームのなかで検証していく姿勢で会議を進めています。それが参加者にも伝わり、積極的な発言になったと考えます。ケアプランをまとめるのはケアマネジャーの役割ですが、そのなかのニーズ、長期・短期目標などはチームのメンバーのアセスメント情報を総合して形にしていきます。そのためにも、意見を聴くという姿勢は絶対に必要です。

また、“ケアプランは利用者のもの”ということは常に念頭に置いていなければなりません。これがないと、一見よくできたケアプランのように見えても、実はケアマネジャーだけの都合で作ったものにしかなりません。鈴木さんは常にKさんや奥さまに確認や意見を求めています。自分からは何を発言してよいかわからなくても、促しやきっかけがあれば言葉にしやすいですし、Kさんが自分自身のこととして考えやすかったと思います。仕事に慣れてくるとケアプランが先に浮かんで、利用者・ご家族への確認という過程を駆け足で済ませがちですが、本人の意見や意向はプランの核になるものです。初心者に戻ったつもりでしっかりと耳を傾けましょう。

せっかく時間を取って一同が顔を合わせる場を作っているのですから、サービス担当者会議を活用し、また利用者の意向を汲んで、ケアプランの内容を充実させていきましょう。

監修者
中村雅彦(JA長野厚生連北アルプス医療センターあづみ病院 居宅介護支援事業所)

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